序 因果のはじまり

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序 因果のはじまり

 はるか昔、大陸に一人の暴君がいた。  彼の王は、遊興(ゆうきょう)にうつつを抜かして国庫を食いつぶし、民に重い税と兵役を課した。諫言(かんげん)する功臣(こうしん)を牢に繋いでは処刑し、隣国を侵略しては多くの奴隷を生んだ。  悪政の限りを尽くす王に誰も逆らえなかったのは、ひとえに『呪妃(じゅひ)』の存在があったからだ。  呪妃は、名の通り王の妃の一人であり、恐ろしい呪術者でもあった。  呪妃は人を呪い殺す邪法を用い、王の邪魔になる者を次々に殺していった。王位を争う兄弟や逆らう重臣達を暗殺し、流行病(はやりやまい)や災害を引き起こして民を苦しめ、多くの死者を出したとも言われている。  多くの臣下が呪妃を恐れ、王に従っていた。だが、腐敗の一途をたどる宮廷や、虐げられる無辜(むこ)の民の姿を目にし、とうとう立ち上がる者が現れた。  王に逆らい幽閉されていた勇猛な将軍、劉玄真(りゅう げんしん)。  功臣の中で生き残っていた若き文官、霍景良(かく けいら)。  呪いに苦しむ民を救ってきた在野の呪術者、漂雲(ひょううん)。  そして、もっとも重要な役割を果たしたのは、一人の青年である。  元々は隣国の王太子でありながら、祖国を滅ぼされた後、その美しい見目で奴隷として王宮に送られた。偶然にも呪妃に気に入られ、小華(しょうか)と名付けられた彼は、長年彼女に仕えて信用を得た。  そうして時が満ちた時、小華は呪妃の力の源である強力な呪具を奪った。力を失った呪妃を捕らえ、恐れるものが無くなった臣下達の蜂起を促したのである。  彼らの反乱は成功し、王は失脚して、遠く離れた島に配流された。  そして呪妃は、処刑になる前に獄中で無残な死を遂げた。  民に底知れぬ恐怖と絶望を与えていた王と呪妃は死に、国にはようやく平和が訪れた。反乱の立役者となった四人は復興でも大いに活躍し、彼らは民の間で英雄と讃えられたのだった。  呪妃にはこんな逸話も残されている。捕らえられた彼女は、こう叫んだそうだ。 「決して許さぬぞ! 劉玄真、霍景良、漂雲……そして小華! 死ぬよりも恐ろしい呪いを、お前達四人に与えてやろう! 千年悠久の時を苦しむがいい‼」  力を奪われ牢に繋がれ、やつれた姿で血走る目を爛々と光らせながら呪詛の声を響かせる姿は、それは恐ろしかったそうだ。  呪妃の呪いは本物だったのか、あるいはただの虚勢であったのか。  彼女の最後の呪いが本当に四人を苦しめることになったのか、千年以上の時が経った今、知る者はいない――。  はずだった。
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