ardor

2/2
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
部屋の扉がノックされる。 「なんだ」 『アーロン様、お食事を召し上がってないようでしたので…よろしければお持ちいたしましょうか』 「今夜は要らぬ。もう休むから下がってよい」 『かしこまりました』 使用人が去っていき、程なくして再び静けさが訪れた。 窓から月明かりが差し込み、部屋を照らす。 その柔らかい光に照らされ、レイの白い肌に咲き誇る紅い薔薇の花弁が美しく浮き上がる。 胸元によりかかるレイの、柔らかな髪を指で梳いてやった。 ……夕暮れ前から今まで、止まることなくレイを抱き続けた。 離れていた距離を埋めるように 触れ合えなかった時間を埋めるように 通い合えなかった心を埋めるように 何度も何度も、何度も確かめ合った。 互いが必要な存在であることを。 互いが同じ思いであることを。 身体と身体を溶かし合い、混ぜ合い、奥深くに刻み込んだ。 「閣下……」 「どうした」 レイが見上げてくる。瞳の奥が月明かりを受けてきらきら光っていた。 「子供だったあのとき、あなたが僕を助けてくれなったら……僕は今この場にはいられませんでした」 「………」 「あの日からずっと、あなたは僕の太陽です」 無邪気で、純粋な瞳がこちらに向けられ笑みが深まる。 ……あぁ、これを待ってた。 この微笑みが、ずっと欲しかったのだ。 レイ。 お前は気づかなかっただろうが 俺も、無意識のうちにお前を求め続けていたのだ。 そしてこれからも俺はきっと… お前以上に、求め続けてしまうのだろう。 「……アーロン閣下?」 身体を起こし、窓際に立つ。 この先もずっと、こうしてお前と共に月を愛でる時間が欲しい。そんなことを考えながら、ベッドの上にいるレイのほうを振り返った。 「この先、どのような困難があろうと……俺のそばにいてくれるか、『我が右腕』よ」 そう尋ねると、レイはふわりと笑ってベッドから立ち上がり、俺の足元に跪いた。 そして、自然な所作で俺の手を取ると、そっと柔らかな唇で口づけた。 「もちろんです。生涯…おそばを離れません………『我が主』」 窓の外。 庭に咲き誇る薔薇が、月明かりに照らされ紅く染まる。 こうして、俺たちの間には 人に言えない形の「愛」が生まれた。 それは主従でありながら情愛、敬愛でもあり、 互いが身体の一部と成りうるような… まさに「右腕の契約」と呼べるものとなったのである。 おわり
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!