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「失礼致します」
とある会社に緊張でガチガチの目玉焼きが、やってきた。
生卵から目玉焼きに変化したので、ようやく師匠である冷蔵庫から面接に行く許可をもらうことができたのだ。
目の前のテーブルには各調味料が揃っていて、今から、目玉焼きの面接が行われるところだ。
「ケチャップさんを、大さじ一杯欲しいです」
声を上ずらせながら、目玉焼きが言った。
「俺をどうするんだい?」
ケチャップが訊く。
「体に、かけようかと……」
「俺を選んだ理由は?」
「やはり、他の目玉焼きと差をつけたいので……」
目玉焼きはケチャップ以外の調味料に対して申し訳なさそうに、小声で言った。
「あの……一つ、いいかな?」
不機嫌そうに、ソースが訊く。
「差をつけたいとは、どういう意味?」
目玉焼きは、「ソースさんとか醤油さんだと、ありきたりなので」と答える。
「君、よく俺が目の前にいるのに、そういう失礼なこと言えるね!」
ソースが怒鳴った。
すかさず、「まあ、いいじゃないですか。彼は若いんだから。僕たちも、そういう時代あったじゃない」と醤油が目玉焼きをフォローする。
「俺が若い頃は、もっと礼儀正しかったよ! 薄口のくせに口を挟むな!」
「あの、私、濃口ですが……」
「薄口も、濃口も一緒だろ? 同じ醤油なんだからさ」
「話にならない。ちょっと、ソースさん黙りなさい。お願いだから黙りなさい」
「嫌だよ! 喋るよ、俺は」
ソースと醤油のバトルが始まり、目玉焼きはポカンとしている。
「ちょっと冷静になりましょうか」
マヨネーズが両者を落ち着かせようと発言する。
マヨネーズの一声で、場が静まった。
「あの、喋らせてもらうけど、君が目玉焼きになった理由は何かな?」
ケチャップが威厳のある声で質問する。
「スクランブルエッグとか、ゆでタマゴは、俺らしさが出ないからです!」
「わかる。君の判断は賢いと思うよ」
ケチャップは、簡単に相手の能力を見抜くキャラの振りをしてカッコつけた。
「ありがとうございます!」
「大さじ一杯にした理由は?」
ケチャップは質問を続ける。
「小さじ一杯は、さすがに少なすぎかな……と」
「君、かけたことあるの? 小さじ一杯のケチャップをさ」
その質問で、目玉焼きが沈黙した。
「おい、何か言えよ!」
ソースが怒鳴る。
「黙りなさい」
怒るときのボキャブラリーが少ない醤油は、また黙りなさいと繰り返した。
「ちょっと冷静になりましょうか」
落ち着かせるときのボキャブラリーが少ないマヨネーズも、ちょっと冷静になりましょうかと繰り返す。
「で、どうなの?」
ケチャップは、ソースと醤油とマヨネーズが口を挟んだせいで、自分がした質問を忘れてしまったが、バレないように、「で、どうなの?」と訊いて、目玉焼きが答えた内容から自分がした質問を推測しようと企んでいた。
「私は小さじ一杯のケチャップさんをかけたことがありません!」
ケチャップは期待していた通りの展開になり、自分がした質問を思い出すことができた。
その瞬間、ケチャップは、目の前の目玉焼きを気に入った。
「気に入ったよ。正直な所が気に入った! 大さじ一杯を提供してやろう」
「ありがとうございます! 大事に使います!」
目玉焼きは大喜びした。
しかし、そこで目玉焼きの素性を怪しんだタバスコが、「何か都合の悪い事実を隠してませんか?」と、訊いた。
「いや、その……」
「もしかして、隠してるんですか?」
タバスコが、念を押して確認する。
「はい。実は、賞味期限が……切れてます」
「何日?」
「35日くらいです」
「あ、そうですか……」
目玉焼きの面接は失敗に終わった。
(了)
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