冬火

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ある日、未明が生まれました。 何にでもなれる世界で、未明は自分が何者になるかを決める旅に出ました。 蝶は風に舞う軽快さを、蝉は愛する者のために鳴く尊さを、未明に教えてくれました。 未明はそういうことを全部覚えておくために、出会いの度一つずつ紙に書きつけて置くことに決めました。 白鳥は美、烏は知恵。 太陽は晴れやか、月はささやか。 鷹は空、ハチドリは花。 狐の子は土穴、熊の子は笹の茂み。 陽炎は夢、鮎は水。 ヤツデは大きく、ヒナギクは小さく。 河は清く、海は広く。 春にも夏にも、秋にも命が溢れています。未明は何になるか考えあぐね、結局決められずに別の場所へと足を進めるのでした。 いつしか、冬がやってきて、未明と話してくれる者は少なくなりました。ひとり途方に暮れ雪原を歩きながら、ついに1年が経ってしまったと思うと、未明は急に悲しくなってしまいました。未明を生んでくださった神様も、フラフラとしている未明をお嘆きになっているにちがいありません。そんなふうに自分の不甲斐なさを責めていると段々気持ちを抑えることができなくなり、未明はおいおい泣き始めました。
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