14人が本棚に入れています
本棚に追加
花屋でポインセチアを見かけるようになった頃、ミュージシャンの夢を諦めきれずにいた凌雅は、三年という期限付きで上京した。
凌雅の夢を後押しする為に、沙紀は別れを選んだ。
大学時代から七年間付き合った彼氏で、勿論結婚も考えていたけれど、先が見えない不安も感じていた。
沙紀のひとつ先輩だった凌雅は、卒業後一度は就職したものの、翌年沙紀の就職が決まった頃には、フリーターとなっていた。その後も定職には就かず、アルバイトで生計を立てて音楽活動を続けていた。
凌雅を応援したい気持ちはあったけれど、周りがどんどん結婚して幸せな家庭を築いていくことに、沙紀が焦りを感じていたのも事実だった。
そんな沙紀の気持ちに、凌雅も恐らく気付いていたはずだ。だからこそ、期限を決めたのだろう。
一番近くで凌雅を見ていた自分が理解してあげなければいけない、と沙紀は思った。
悩んだ末に出した答えだった。
ポインセチアを送ろう
大きなツリーは買えないから
ポインセチアを送ろう
大好きな君に……
あの日、真っ赤なポインセチアの鉢植えを沙紀に手渡し、「さよなら」ではなく「いってきます」と凌雅は言った。
「待ってる」と言ってあげられる程の余裕はなかったけれど、「頑張って」と笑顔で凌雅を送り出した。
最初のコメントを投稿しよう!