44.追跡

1/1
前へ
/50ページ
次へ

44.追跡

「クソッ、どこに行った!?」  俺と大翔は息を切らせてあたりを見回した。 「あっちに行った気がするんだけど」 「よし、行ってみよう」  俺たちは大通りから外れた道を進んで行った。  道は細く、物乞いが時々端に座っている。 「あ、あそこ!」  開いたドアの影になっていたが、人の手がちらりと見えた。  バタン、と扉が閉まった。 「行ってみよう」 「うん」  問題のドアの前に行き、中の様子をうかがう。話し声が聞こえてきた。 「お母さん、今日の売り上げだよ」 「まあ、こんなに? 最近急に売れるようになったけど、何かあったの?」 「みんなが僕たちの作るパンの美味しさに気づいたんだよ」  俺と大翔は顔を見合わせた。 「入ろう」 「うん」  ドアをノックした。 「すいません」 「はい?」  女性の声がした。 「おかあさん、開けちゃダメ!」 「え? 何故なの?」 「何でも!」 「おかしな子ね」  ドアが開いた。 「はじめまして、ちょっとお伺いしたいことがあるんですが」  俺の言葉を聞いて、女性は不安げな表情で言った。 「なんでしょう?」  女性は俺たちを観察するように見た。 「あ、居た!」  大翔が部屋の奥にさっき俺たちから逃げた少年と少女を見つけた。 「あの、うちの子が何か?」  女性は青白い顔をして、か細い声でに大翔に尋ねた。 「えっと、その……」 「お客さん! 話なら外でしましょう!」  少年が部屋から飛び出し、俺たちを道まで押し戻した。 「お母さんは寝てて! 病気が悪くなっちゃう!」  少女も家から出て、扉を閉めた。 「……お前ら……」 「……ああっ、もう! 家まで来るなんて!! 信じらんねえ!!」  少年が俺のことを睨んでいる。 「悪いのはお前たちだろう? なんで俺たちの店を騙ったんだ?」 「……その方が売れるからだよ」  少年は吐き捨てるように言った。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加