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私の友人Kは、いわゆるアニメオタクだ。
そういう文化に疎い私は、初めて彼の部屋を訪れた時、たいそう驚いたものだった。
「なんだ、これは……」
唖然とする私に対して、不思議そうな顔をする友人K。
「これって、どれのことだ? 咲子ちゃん? まいまい? みっちー? カオリン? それとも……」
女性の人名らしき言葉が次々と出てきて、ますます私は困惑する。
壁際の棚にところ狭しと並べられていたのは、たくさんのプラスチック人形だった。
「いい歳して、しかも男なのに、人形遊びとは……」
「『人形』じゃない、フィギュアだぞ」
怒ったような口調で、ただし目には呆れの色を浮かべて、友人Kは訂正する。彼の部屋にあるのは全て、アニメの登場人物を模したものであり、こういうアニメキャラの『人形』のことを、フィギュアと呼ぶそうだ。
「男なら誰でも、推しキャラのフィギュアの一つくらい、持っているのが当然だろ?」
自分の常識が全て、と言わんばかりの口調だ。しかし私には全く理解できず、その気持ちを顔に表してしまう。
「そうか、アニメを見ないお前にはわからんのか……。でもお前だって、恋人の写真を懐に忍ばせる、みたいなことはするだろ? それと同じさ」
いや、こうして堂々と部屋に飾っているのだから、友人Kの場合は『忍ばせる』とも違う。
そもそも私には『恋人』なんて出来たことがないから、アニメの推しキャラを恋人に例えられても、全く共感できないのだった。
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