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「癪、これを黄泉の地に埋めてくれ」
癪が咥えて壁の切れ目から消えて行った。
「ああっ、頭が割れるように痛い」
瀬川は仕事中に救急車の中で倒れた。金原がセットした時刻である。
「瀬川さん、瀬川さん、横山病院に搬送しますよ」
「それだけは勘弁してくれ」
「どうしてですか、瀬川さんは名医だといつも言っているじゃありませんか」
「駄目だ、あそこは駄目だ、山の上の病院にしてくれ」
「時間がありません、横山病院に搬送します」
瀬川はすぐにオペ室に運ばれた。オペ室には寿命を止められている横山院長と白衣を纏った金原がいた。
「お前は?」
瀬川は金原に気付いた。
「残念ながら院長は寿命を止めてある。私が手術をしよう」
「ふざけるな」
「ああそうだ、その前に健康保険証を出して」
瀬川は携帯していない。
「家にある」
「だめだめ、保険証がないと手術しないよ」
金原は瀬川の寿命を読み取る。
「残り2分29秒、28,27,26」
「どうすればいいんだ?」
「勘違いを悔い改めなさい。保険証より命だ、数分数秒の違いで助かる命がある。お前はただの人間、神の領域に触れてはならない」
「分かった」
金原は横山院長の寿命を再会した。そして瀬川の寿命を元に戻した。
「さあ、先生、お願いしますよ」
横山は目の前の出来事が把握出来ない。
「頼む、俺を山の上の病院まで連れて行ってくれ」
金原は首を横に振った。手術が始まった。6時間に及ぶ手術となった。金原は助かることを瀬川の脳で読んでいる。
「命は問題ない。しかしもう起き上がることは出来ないだろう」
横山は不憫に感じていた。
「院長、これも神の創造に折り込み済みです。彼は運命としてこうなることになっていました。この先25年以上生き続けるでしょう。勿論院長の腕も彼の運命に繰り込まれています」
「君は何者だね?」
「まだご挨拶していませんでしたね」
金原は名刺を渡した。
「彼はこうなる前に反省した。きっと来世はそれほど悪くない物に転生出来るでしょう。院長、あなたも反省することです。命の尊さを重んじることです。生涯、それを使命としていれば神もあなたを見捨てないでしょう」
金原はハンチングを脱いで頭を掻いた。癪がストレッチャーの切れ目から飛び出して来た。癪の背に乗った。院長は夢と思い頭を壁にぶつけた。額が割れて血が吹き出した。
「仙人」
金原が手を振った。癪が柱の切れ目に飛び込んだ。
了
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