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「小坂くんって数学苦手だったっけ? そんなイメージないんだけど」
「スズメって実は肉も食べるんだよ。そんなイメージないだろ? それと同じさ」
「小坂くんって会話苦手だったっけ?」
今日も机に問題用紙を置いたままペンを回す葉原さんは眉をしかめた。
いつか来る質問だと思っていたが追試五日目にして訊かれたか。なんとか誤魔化せたみたいでよかった。
告白解禁日は年二回、五月と十一月の第三金曜日と定められている。
五月の告白解禁日には僕はまだ彼女と会話すらできていなかった。そして十一月の告白解禁日は一週間後。
僕はそこで彼女に告白するつもりだ。
「この追試っていつまであるんだろう。解かなきゃ終わんないのかな」
「解かずに終わる追試なんかないんじゃないか」
「うーん、そうだよねえ」
とは言いつつも彼女のペンが問題用紙に置かれる様子はない。
いや彼女のペンというか、あれは僕のペンだ。追試初日に返しそびれてからなんだかんだと交換したままになっている。
ここ数日の白紙提出の影響か、開始当初よりも問題の難易度はかなり下がっていた。絶対に答えさせてやる、という先生の意地すら感じる。
葉原さんの言う通り、僕は別に数学が苦手ではない。それでも僕はこの問題を解くわけにはいかなかった。
これは僕の作戦だから。
「まあ無理せずゆっくりやろうよ」
そうだね、と答える葉原さんを僕はちらりと見た。同じ蛍光灯に照らされているはずなのに彼女の横顔はなぜか煌めいて見える。
彼女のことを好きだと気付いたのはずっと前だ。告白しようと決めたのも同じ頃。
しかし僕はそこで『期間限定告白制度』の重大な欠陥に気付いてしまった。
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