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「ああそうだ。お前らがどれだけまっさらな解答用紙を提出しても、追試は木曜日が最後になる」
その日の放課後、先生は悔しそうな声でそう言った。僕は信じられない気持ちでいっぱいだった。
告白解禁日は金曜日だ。あと一日。あと一日あれば。
「なんでだ……あんなに簡単な問題も解けなかったのに」
「危ない。手が出そうだった」
「私なんかペン回しすぎて指にタコできたのに」
「お前らは俺を教育委員会に突き出そうとしてるのか?」
鬼の形相を浮かべた先生はその怒気を大きなため息にのせて吐き出す。告白のためとはいえなんだか悪い気がしてきた。
けど、解かずに終わる追試があるなんて。
「まあ、大人の事情ってやつだよ。あんまこういうこと言いたかないけどさ」
大人の事情。よりによってそれが告白解禁日前日とは。
いや、だからこそか。
国民の恋愛を促すために国が設定した告白解禁日だ。それを追試とはいえ高校の一教師が邪魔するわけにはいかないのかもしれない。
「あと三日だ。俺はあと三日でお前たちにも解ける問題を出題してみせる!」
「私はあと三日で新技を完成してみせます!」
「葉原このやろー!」
先生と葉原さんのやり取りは僕の耳を素通りしていった。どうする、ということばかりが頭を巡る。
どうする。作戦は失敗だ。どうすればいい。ここを逃せば告白解禁日はまた半年後。そんなの嫌だ。
……嫌だ?
ふと、僕は自分の感情に疑問を持った。
何が嫌なんだ。好きな人に好きだと伝えられないこと?
──それとも、せっかくの告白解禁日に告白できないこと?
「ん、どうかした小坂くん」
「ああ、いや」
『限定』という言葉が頭に浮かぶ。
違う。僕は決して告白解禁日の限定感に惹かれて告白したいわけじゃない。
告白できるのはその日だけだから、なんて。
彼女への気持ちはそんなお得感じゃないはずだ。僕は彼女のことが好きなんだから。
何度も何度もそう言い聞かせた。
けれど重ねれば重ねるほど、自分の言葉がひどく空っぽなものに感じてしまう。
「……なんでもないよ」
どうしても自分の言葉が言い訳にしか聞こえなかった。
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