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「ふう、ついに決着だな」 「負けませんよ先生」 「追試に勝ち負けとかあるんだ」  追試最終日、先生と葉原さんは腕組みをして睨み合っている。どうして彼女はそんなに堂々といられるのか疑問だが、今はそれどころではなかった。  好きだから告白したいのか、告白できるのが明日しかないから告白したいのか。  僕はまだその答えを見つけられていない。 「じゃあ一時間後また来るからな!」 「一時間後に新技を披露しますね!」 「葉原このやろー!」  先生の叫びを残して扉は閉まり、僕たちはいつものように二人きりになる。  葉原さんを見ると、彼女は今日も僕のシャーペンを回していた。ペン交換した日から返しそびれていた。  僕は彼女のことが好きだ。それは間違いない。  でも、と僕の中の僕が問いかける。  僕は彼女のことが本当に告白したいくらい好きなのか? 「ねえ小坂くん」 「ん?」  ふと隣の席の葉原さんがこちらを向いた。急に目が合って驚く。  けれど彼女はそんなこと気にも留めていない様子で話を続けた。 「いよいよこの長かった追試も終わりになりますね」 「また敬語だ」 「追試コンビも晴れて解散となるわけですね」 「ああ。それについては本当に心晴れやかだ」 「小坂くんって追試終わりたいのか終わりたくないのかよくわかんないよね」  元の口調に戻った葉原さんはいつものように笑う。思わず僕は目を逸らした。  今まで僕の目を惹きつけて離さなかったその笑顔はこんなに簡単に引き剥がせるものだったのか。 「……うん、僕にも僕がわからないよ」 「まあ人生はわかんないことだらけだよね」  はっと僕はもう一度彼女を見たが、どうやら特に深い意味はなかったらしく「まあそれはさておき」と本題を切り出した。  僕のペンが彼女の人差し指をくるりと一周する。 「今日の追試終わったらさ、打ち上げ行こうよ」
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