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夕方、オーシャンとソニアは二人でアイスを買いに出かけた。私とシエルはその間に夕飯を作ることにした。オーシャンはステーキが食べたいと言っていたが、冷蔵庫には食べかけのスモークサーモンが7切れ、しなびたレタスがあるのみだった。冷凍庫には業務用かと思うほどに大きな冷凍のピラフの袋が入っている。
「……流石にこれはあんまりね」
私はつぶやいた。
「ピラフをケチャップで炒めて、オムライスにしましょうか」
シエルの提案に、なるほどと頷く。普段、料理なんかしない私は彼女のように機転が効かない。
「じゃあ私はサラダを作るわ」
「うん、お願い」
シエルが溶いた生卵を炒めている間、私はしなびたレタスを水洗いし、手でちぎってボウルに入れた。
「普段は母親か、ロマンが料理をするの。私はもっぱら食べる専門」
「あなたのお姉さんは、上手なの? 料理」
「うん、母親よりも上手よ」
サーモンを細かく切り、サラダにあえる。その後でオリーブオイルとソイソースとワサビを加える。前にロマンが作っていたサラダを真似しただけなのだが、これだけでもそれなりの味になるのだ。
シエルはクレープ生地のように薄く焼いた玉子を大皿に重ねた後、ピラフにケチャップと、頭上のキャビネットから見つけ出したトマトとオニオンの缶詰を混ぜて、フライパンで返したりしながら器用に炒め始めた。
「あなたって、なんでも器用にできる方?」
尋ねると、シエルはどうかなと首を傾げる。
「周りからはオーシャンよりも覚えが良くて器用って思われてるっぽいけど」
「双子だと、色々比較されたりする?」
「うん。だけど、それにも慣れちゃった」
最後にケチャップを混ぜて軽く炒めたあと、火を止めて、フライパンに蓋をするシエル。
「ママによく言われるのは、オーシャンよりも私の方が育てにくかったって」
「意外ね」
「小さい頃、私はオーシャンよりも自己主張が強かったみたい。頑固だともよく言われる。中学の時は寮生活だったから、自分をある程度おさえるようになったのかもしれないけどね」
「私はしょっちゅう親に言われるわ。頑固でヒステリックで、人の言うことを聞かないって」
「だけどそれって、感情に忠実で、自分の考えがあるってことでしょ? そんなに悪いことだとも思わないけど」
シエルは冷蔵庫を開けて、透き通った緑色の瓶に入った炭酸水を取り出し、テーブルの上に出された二つのグラスに注いでゴクゴクと飲んだ。そのあとで、私にも一つを手渡した。受け取ったグラスに口をつける。ピリッとした炭酸の泡が、舌の上で弾ける。
「逆にロマンは柔軟性があって優しくて、人に上手く合わせられる。その代わり優柔不断なの。だけどこの間言われた。私の気持ちには答えられないって……。泣きながらね」
「ずっと聞いてて思ってたんだけど……。お姉さんがあなたにしてるのは、結構残酷な仕打ちだと思うな」
「そうかしら……」
「あなたのお姉さんを悪く言うつもりはないけど……。何だかロマンさんは、本心を隠してる気がするのよ。彼女なりの理由があるのかもしれないけど……。あなたはちゃんと彼女と向き合おうとしたわけでしょ? それに正面からぶつかろうとしないなんて、卑怯よ」
卑怯という言葉が胸に突き刺さる。姉に言われたことなのに自分に言われたみたいな気持ちになるのは、それほどまでに私がロマンと自分を同一化しているからなのかもしれない。
「姉は……ロマンは優しすぎるの。昔から私を怒ったことは一度もない。私が何度彼女の気を引こうと酷いことをしても」
姉はいつも私の味方だった。私が両親に怒られたときは庇ってくれ、落ち込んでいる時は優しく慰めてくれた。遅くまで勉強をしていると、夜食だと言って美味しいスープを作って持って来てくれた。彼女の優しさは、だけど、この私の気持ちの前ではシエルの言うように残酷なものに変わってしまうのだろうか。
「ごめんね、エイヴェリー。私はあなたに幸せになってほしいと思ってるの」
「いいのよ、分かってる」
彼女が私のことを考えて言ってくれたことは、痛いくらいに伝わった。オーシャンだって、クレアだって私に親切にしてくれる。だが、シエルの優しさはオーシャンの不器用な優しさとも、クレアの温かい包容力とも違う。彼女の言葉に棘を感じたのは、それほど友人である私を思っているからなのだろう。
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