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「おいおい、何二人仲良くなっちゃってんの」
1人リビングに取り残され不満げな顔のオーシャンがやってきて、シエルのベッドにドスンとあぐらをかいた。スプリングの軋む音が部屋に反響する。シエルは姉の方に視線を送り、
「安心して、彼女を取ったりしないから」
と悪戯っぽく笑う。ふん、と照れたような顔をしてそっぽを向くオーシャン。
「私はリビングで宿題をしてるわ」
シエルは立ち上がり、私に軽く微笑みかけてから部屋を出ていった。数秒間ののち、沈黙が流れる。
「双子って、同じ人を好きになったりすることあるの?」
不意に浮かんできた、以前から気になっていた質問を投げかけてみる。
「好きな相手が被ったことはねーな。けど、俺が好きになったやつは、悉くシエルを好きになるんだ」
「それは……辛いわね」
「まぁな。だけど、あいつは誰とも付き合ったことがないんだ。俺が好きだったやつがシエルに告る。そして振られる。泣きつかれるのは俺。多分、シエルが振るのは俺の気持ちを知ってるからなんだろうな。姉思いなんだよ、あいつは」
彼女たちのような健全な姉妹関係が、ロマンと私の間に築けたらどんなによかっただろう。姉のことを想って幾度となく涙を流し、嫉妬に狂って感情のまま行動して余計に自分を傷つける。そんな日々には疲れ切っていた。
「ロマンから物理的に離れたら、少しは楽になるのかしら」
ロマンの顔を毎日見なくても良い、彼女が誰かとキスをしているのを見て胸を痛めなくても良くなれば、この気持ちに整理がつくのだろうか。
「どうだろうな。一時的には楽になるかもしんねーけど、完全に忘れるってのは無理じゃね?」
「前に両親に言われたの。ロマンと離れて暮らしてみないかって」
私がロマンに恋人ができるたびに食欲を無くして情緒不安定になり、家出を繰り返すのを見兼ねた両親のアドバイスを、その時の私は聞き入れなかった。ロマンと離れて暮らすだなんて耐えられないと感じたのだ。だが、今になると彼らの助言は正しかったのかもしれないと思う。
「離れて気持ちが安らぐなら、やってみても良いんじゃね? それにほら……離れてみれば、姉さん以外の他の人にも目が行くようになるかもしれないだろ?」
友人の助言に曖昧な頷きを返す。今すぐにロマン以外の相手を見つけるなど、考えることはできなかった。幼い頃の私は友達作りなどにもそれほど興味がなく、ただロマンさえいればよかった。高校でも友達を作る気なんてさらさらなかった。こうしてロマン以外の誰かと親しく話していることが不思議なほどだ。
友人たちとこんな日々を送るうちに、ロマンのことを今の半分でも考えなくなる日が来れば、何かが変わるのだろうか。
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