正一少年

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話しを聞き、サンタクロースは気遣わしげに彼の頭を撫でた。 「そうなんだ。だから、おじさん。 “契約”させてよ。 それだけあったら…アイツらに腹一杯食わせてやれる! 良い生活だって、させてやれる! 俺が居なくても弟と妹は、大人になるまで大丈夫だ」 「分かった。 明日の早朝、迎えに行く。 弟妹達と最後の夜を過ごしなさい」 サンタクロースは百万円の束を正一に手渡し、そっと背中を押した。 「気を付けて帰りなさい」 「うん!おじさん、ありがとう!」 再び眼前に開けた、何時もの風景に向かい正一は駆け出した… やがて…両手に食物の入った風呂敷を抱え、帰宅。 兄弟三人で賑やかな夕食を採り、風呂の世話をし… 弟妹達が寝静まった後、正一は小さなちゃぶ台で手紙を書いた。 それは…残していく弟妹達へ宛てた、兄の想いであった… 翌朝…弟が目を覚ますと、兄の姿は無かった… 「兄ちゃん、どこ?」 何時も聞こえる筈の、返事が無い。 「兄ちゃん!どこ!…あれ?」 不安になり声を張り上げても、返事は無く… 周囲を見渡し、初めてちゃぶ台の上にある物に気がついた。 紙包みと、その下には大きく書いた平仮名だらけの手紙。 紙包みの中身を見て、弟は声にならない声を上げた。 「こ、これ…お金、だよ、ね? 何で、ここにあるの?」 不思議で堪らない弟は、お金の下に置いてある手紙に目を落とした。 「これは…手紙? 『正二、梅子へ。 ここに、お金が百万円近くある。 お前達が大人になるまで、良い生活が出来る筈だ。 父ちゃん、母ちゃんよりも長生きして、元気で居てくれよ。 お前達の喜ぶ事が、俺の喜びだから。 70年後、又、会えたら良いな。兄ちゃんより』 …にい、ちゃん…な、んで?」
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