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その日の晩、僕は満理奈に言われたとおり彼女の靴下を抱きしめながら寝た。匂いを嗅いだ。試しに口にくわえてみたりした。きっとなんの匂いも味もしていないのだろうけど、どことなく甘い彼女の匂いが漂ってくるような気がした。
翌日、バッグにいれて学校に行った。その日の晩も靴下を抱きしめて寝た。次の日もその次の日も、僕は靴下と行動を共にし、一緒に寝た。まるで宝物のように、彼女自身に触れるかのように大切に扱った。
しかし、一週間が経っても、一か月が経っても、彼女からの連絡はなかった。心配になり、こちらからメールをしても既読はつかず、電話もかからなかった。
だんだん、ずっと靴下を抱いて寝ていることが馬鹿らしくなってきたのでいつからかその行為自体を辞めた。そしてさらに一か月と三週間が経ち、すっかりと彼女のことも靴下のことも考えずに済むようになったころ、満理奈は突如として、またふいにマンションのエレベーター前に現れた。ちょうどあの日と同じく、僕の帰りを待っていたかのように。それから僕は彼女に手を引かれるままに、マンション裏の駐車場へと移動した。ひさしぶりに繋がれた手は、ちょっとしたことで壊れてしまいそうなくらい細くて、弱々しく感じた。
満理奈は、カフェで会ったときよりもさらに痩せ細って見えた。数ヶ月も連絡が取れなかったものだから僕のことを避けているのか、はたまた飽きたのか……色々なことを考えていたが、その予想に反して彼女は僕に会えたことをとても喜んでいる様子だった。
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