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それから数日が経過した。満理奈とは連絡先を交換したものの、あの日以来なんの連絡もとりあってはいなかった。特段、連絡をするつもりもなかった。童貞の友人を紹介してだなんて馬鹿げているし、本当に童貞を卒業できるのなら、僕が真っ先に卒業したい。自分を差し置いて友人を卒業させてやるほど僕もお人好しではない。
そんなくだらないことを考えたりしながら、いつもと変わらない日々をのんきに過ごしていたら満理奈から突然連絡がきた。「まだ見つからないの?」というぶっきらぼうなメッセージだった。「そもそも探してない」と返信すると「放課後に駅前のカフェに集合」とだけ返ってきた。僕は既読をつけることもなく、そのメッセージを読み捨てた。
でも結局、帰りの時間になるころには満理奈のことがどうしても気になり、しぶしぶカフェに向かうことにした。
下校時にはまだ晴れていた冬空は、電車を降りるころには鉛色の雨空へと変化していた。駅前のカフェに入り、店内を見回す。満理奈は窓際の席で頬杖をつきながら、ぼんやりと降る雨を眺めていた。気のせいか、風が吹いただけでどこかに消えてしまいそうなほど儚げでどこか不安定な印象を受けた。でもその危うさがよりいっそう彼女の魅力を引き立ててもいた。僕が席に着くとすぐに「随分なツバメさんね」と彼女は頬を膨らませながら言った。「信じていたのに、あんまりだわ」
「だから僕はツバメじゃない」と僕は言い返した。
「ねえ、翼くん。やっぱり童貞でしょ」
「違うってば。いい加減怒るよ」
「ごめんごめん。あくまであたしの願望だよ。もういっそのこと翼くんが童貞だったらよかったのになって。だってそれなら、あたしは翼くんのために一肌脱げばいいだけなんだもん。あ、いま、うまいこと言ったねあたし。一肌脱ぐだなんて」
満理奈がまた、その曇りひとつない宝石のような瞳で僕を見つめてくる。僕は目を逸らしつつ、一言「下品だよ」と呟いた。
「そうかな。あたしの裸、きれいだと思うよ?」
店員さんがやってきて、僕の手元にホットココアを置いて去っていった。満理奈は楽しそうにアイスクリームの乗ったメロンソーダをストローで吸っている。その様子を眺めていたら、ストローを取り出して「翼くんもくわえる?」だなんて聞いてきたので、僕は慌てて窓の外に視線をうつし、傘をさす人たちを眺めながらココアをすすった。
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