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「いいじゃん。あたしは翼くんの力になりたい。翼くんはあたしと寝たい。あたしの靴下を大事にしていたら、そのうちあたしと……ふふ、とっても素晴らしい話じゃない」  心の声を聞かれているんじゃないかと思うくらい、全部が見透かされていて、僕はいよいよ嫌になってきた。見栄を張っているのが馬鹿に思えてきた。彼女の言うとおりだ。本当は、僕はあの日、エレベーター前で満理奈に話しかけられてからずっと、ずっと彼女に夢中だった。満理奈の言動ひとつひとつにときめき、期待していた。いつの日か付き合うことになったりして、満理奈が僕の恋人になって、そしてキスをして、セックスをして、僕はついに童貞を卒業することができるのではないかと、考えたりもした。当然、彼女とセックスができるのなら、すぐにでもしたい。キスがしたい。なんなら靴下を抱きしめてその匂いを嗅ぎながら寝たい。僕はいつのまにかそれほどまでに満理奈の虜になっていた。家にいても学校にいても、満理奈のことしか考えられないようになっていた。 「本当に、キスしてくれるんだろうな」と僕は訊ねた。 「嘘つきは泥棒のはじまりだよ」と彼女が答える。 「セックスも」と僕。 「お望みとあらば」と彼女。  満理奈は引っ込めていた左脚を、ふたたび僕に向かって伸ばす。腐りかけの植物のようにだらしなくしだれた靴下が、僕を物憂げに見つめている。僕は思い切ってその靴下を引っ張り、急いでバッグの中にしまった。引っこ抜いた瞬間、満理奈がわざとらしく吐息混じりの声をあげた。反応したら余計に喜ばせるような予感がしたので、それには気づかないふりをした。靴下をバッグにしまい、恥ずかしそうにしている僕を見て、満理奈はずっと幸福そうに笑っていた。
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