第1章 僕の好きな人

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そしていよいよ店舗の中へ。 いつも通路から見ていたのと反対側の風景が見える。不思議な気持ちだ。 「まあ最初は見てたらいいよ。でもお客さんは純くんが初日だなんて知らないから、話しかけられたらちゃんと応対してね」 「はい」 店内の備品について説明を受けている間に、もうお客さんが来てしまった。 「いらっしゃいませ」 注文を聞いてケーキを箱詰めして代金を貰ってお渡しする。見ていると簡単そうだけれど、実際自分がやるとなると覚えなきゃいけないことが色々ありそうだ。僕はこの店の前を毎日のようにただ通り過ぎていただけで、ケーキなんて一度も買ったことがない。ここ以外の店でも、母に買って貰うのを眺めていたことが数回あるかなってくらいだ。だからケイタくんが流暢に復唱しているケーキの名前なんて何1つ知らない。しかもそれを調度いい箱の中に倒れないように収めなければならない。それにレジも。決済方法がいくつかあるみたいで、それによって操作が変わる。 僕に出来るかな。 「すいません」 ケーキの名前を覚えようとしていたら、お客さんに声を掛けられた。ケイタくんは別のお客さんと話している。 ってことは僕が応対するの? 「はい」 とりあえず返事をしたら、注文されてしまった! えっとケーキはこれで取ればいいのかな? 早くしないと、わからなくなっちゃう! 「こ、こちらでよろしいですか?」 「え? 違いますけど」 間違えた! え、どれ? 全部?
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