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啓大くんが申し訳なさそうな顔で問いかけると、店員さんはまた電卓をたたいた。
「わかりました。ではこれで!」
「買います!」
うわー、半額切っちゃった。
全員無事買い物を済ませて店を出ると、林が言った。
「いやー遠目に見てましたけど、流石ですね。あんな値引き交渉俺には無理っす」
「今日大は優遇して貰えるのが当たり前だと思ってるからな」
「そこまで自惚れてないし、あの店員さん啓大の方がタイプだっただろ。お陰で得した。あ、元値違うけどきっちり三等分で良かったか?」
「大した差じゃないしいいよ。余裕あるなら純くんにあげて」
「ううん、僕も大丈夫。僕にも無理だから値引き交渉してくれてありがとう」
「そんなことないよ。純が甘えたら年上の女性なんてイチコロだ。なあ啓大?」
「うん、純くんはもっと甘えていいと思うけど、今日大は見習わない方がいいよ」
「はー? どういう意味だよ」
「どうってそのまま――ちょ、今日大、止めろ」
見習いたくても到底無理だと思いながら啓大くんにじゃれつく兄を眺めている間に部屋の前に辿り着いた。
「なあ、純と啓大もこっち来いよ」
兄と林が撮った写真や動画を見ながら話をしようと兄たちの部屋に招き入れられた。皆の写真はカッコいいけれど、僕のはカッコ悪い。
「やっぱり僕だけ下手で恥ずかしい」
「仕方ないよ、昨日始めたばかりなんだから」
「それなんだけど……僕、スキー初めてじゃなかった」
僕は皆に、啓大くんが追いかけて来て一緒に滑ってくれた時に、父とスキーをしたことを思い出したと話した。
「本当に幼い頃だったし断片的にしか思い出せないけれど、僕はその時とっても楽しくてお父さんのことが大好きだったのは間違いないってわかった。お父さんは多分その翌年には出て行ってしまって、それは凄く悲しくて辛いことでそれだけが全てになってしまっていたけれど、そうじゃなかったんだって今日、思い出せた。だから皆にはとっても――え、 林……?」
僕の話を聞いていた林が泣き出して、兄が肩を抱き寄せた。
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