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「林も前の父ちゃんのこと思い出したのか?」
林は泣きじゃくりながら首を振った。彼は実の父親には一度も会ったことはないと話していた。しかしどんな人なのかは当然気になるし、割と最近、母親に聞いてみたという。
「ダメな人だったから結婚しなかったけれど優しい男で私は好きだったって言われて、なんだそれって思ったけど……佐藤の話聞いてたら俺……俺の実の父親にもちょっとはいい所あったのかもしれないなって……」
「当たり前じゃないか、林のお母さんが一度は惚れた男だろ? でもそんな風に言えるってことはお母さんは今無茶苦茶幸せで、今のお父さんはもっといい男ってことだろうな」
兄の言葉に大きく頷く林に、啓大くんがタオルを手渡した。すると兄は啓大くんに尋ねた。
「そういえば啓大、お父さんに会うかもしれないって言ってたけど、どうした?」
「ああ、会ったよ」
「で、どうだった?」
「うん……普通だったよ。普通に会話が出来た。離れていても親子だったんだなって思った」
「ふーん……ってそれだけ?」
「ああ。それより今日大は久しぶりにスキー場に来てみてどうだったんだ?」
兄は少し驚いたように大きな目を見開いてから微笑んだ。
「聞かなくてもわかるだろ。良かったよ。母親の事故は忘れられるわけがないし忘れちゃいけないけど、やっぱり雪山は綺麗だ。そこで仲間とスキーをするのは楽しい。啓大、純、林、付き合ってくれてありがとうな」
既に抱いていた肩を強く抱き寄せられた林はついに号泣し始めたけれど、兄は一粒の涙もこぼさなかった。
ずっと笑っていた。
強く、美しく。
それから林が落ち着くのを待って皆で大浴場に行ったけれど、吹雪で露天風呂は使用中止になっていた。そして風呂から出ると夕飯を食べながら明日の予定について話した。
「これ本当に明け方には止むのかなあ」
「晴れたら今度こそ上級制覇しようって考えてるのか?」
「うん。晴れたらいいだろ?」
「まあ……登ってみてからだな」
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