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「でも今は……啓大、純、おめでとう!」
兄は両腕で僕らを抱き寄せ僕の頭に自分の頭をこすりつけた。
「よし、乾杯しに行こう」
朝食会場に移動して、ジュースで乾杯した。兄も林も啓大くんも、もちろん僕も笑顔で。そして食事を始めると兄は言った。
「でもさあ純、今日ちょっと啓大貸してくれる? 俺やっぱ上級全制覇したいんだけど、誰か一緒に行ってくれると心強い」
その誰かは、このメンバーだと啓大くんしかいない。すると林が言った。
「俺は緊張しながら急斜面を滑るより緩やかなコースを楽しんで滑りたいし、1人で滑るより2人がいいから佐藤と一緒に初級コースに行きたい。それで2人が上級滑っているところも見たいから考えてみたんだけど――」
兄と林は既にそのつもりでコースを選んでいて僕と啓大くんに提案した。
「僕も今日は林と滑りたいし、啓大くんには兄さんが無茶しないようについていて欲しい」
僕がそう言うと、啓大くんは頷いて答えた。
「わかった、そうする。今日は最後の日だし、皆思い切りスキーを楽しもう」
ゲレンデに出ると快晴で、昨日積もった真新しい雪がキラキラと輝いていた。僕と林はゆっくり初級コースを降りて行き、上級と合流するポイントで兄と啓大くんに連絡した。
「今から降りるって」
ドキドキしながら待っていると、美しいシュプールを描きながら2人が並んで降りて来た。兄が先に行き、啓大くんは兄に合わせて同じリズムで滑っている。
「綺麗……息ピッタリだね」
「ああ。佐藤の兄ちゃんと啓大さん、どっちもカッコよくてほんと羨ましいよ」
照れて頷いた僕は、もう兄に嫉妬してはいなかった。今好きなのは僕だって、啓大くんがハッキリ言ってくれたから。それにこの旅行中に僕は佐藤今日大を兄としてすっかり受け入れることが出来たみたいだ。彼はもう恋のライバルではなく、僕の自慢の兄だ。
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