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中に入っていたのは指輪ではなかった。でも――
「これ、お母さんへのプレゼントじゃ……」
キラキラ光る雪の結晶のピンバッチ。3つセットになっていたけれど、箱の中にはそのうちの1つだけが入っていた。
「うん、1つは母にあげた。もう1つは俺が持ってる。母にはまだ俺たちのことは話せないけれど、いつか3人で身に着けられたらいいなと思って」
僕は目の前の雪の結晶のピンバッチを眺めながら、お揃いで身につけて談笑する3人を想像してみた。
「そんな日が来るといいですね」
「他人事じゃないよ、自分たちで努力しないと」
「ごめんなさい、そうですよね、僕――」
その為に僕は何をしたらいいのだろう。
まずは啓大くんのお母さんに信頼されるような大人にならないと。それにはちゃんと就職しなきゃだし、その前にまずは大学か。
「とりあえず大学受験頑張ります」
そう答えたら啓大くんは一瞬驚いた顔をした後、笑った。
「え、あの、違いますか?」
「いや、大正解だと思うよ。思うけど……純くんはホントに真面目で……」
面白くない。もっと気の利いた答えを返せない自分に落胆していると、啓大くんはクロスケを抱いていた僕の手を握った。
「可愛い。大好きだよ」
ホントにそう思ってくれてるのかな。
少し不安になって啓大くんを見上げると、彼は優しく微笑んでいて、その美しい笑顔に引き寄せられるように小さな白い粒がフラフラと落ちて来るのが見えた。僕より先にユキオくんが小さく鳴いて知らせると、啓大くんもそれに気づいた。
「あ、雪だね」
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