第1章 僕の好きな人

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僕の家は、駅から近いかわりに狭くて古いアパートの一室。 そこで母と2人で暮らしてる。 父が消えたのは5歳の時だ。 元々家に帰らないことが多かったけれど、全然帰って来なくなったのはその年の12月だった。でも僕はそれよりサンタさんにお願いするクリスマスプレゼントのことで頭が一杯で、どれにしようか迷って決めかねて閃いた。欲しい物を並べてサンタさんに選んで貰おうと。それで覚えたばかりの平仮名でサンタさんに手紙を書いた。 ぜんぶ ください だめなら 1つでもいいです その手紙をサンタさんに渡して欲しいと母に頼んだら、衝撃の答えが返ってきた。 「サンタクロースなんて本当は何処にもいないのよ。今までパパがサンタクロースの振りしてたの。でも嫌になっちゃったみたい。もうサンタさんは来ないわ」 「嘘でしょ?」 「ホントよ。サンタさんも、パパも、もうここには来ないの」 それが父と母の問題であって僕なんかの力が及ぶ話ではないことなんてわからなかったから、僕は全て僕が欲張りな手紙を書いたせいだと思った。 「ごめんなさい。プレゼントなんていりません。いらないから来ないなんて言わないで下さい」 まだ何処かにいるはずだと信じていたサンタさんに向かって泣いて叫ぶと、小さなボクの肩に縋って母も泣き出した。 翌日僕はサンタさんへの手紙を書き直した。 パパをかえしてください 背伸びしてポストに入れたけれど、あれを回収した郵便局員さんは困っただろうな。 手紙なんて届くわけがないし、サンタさんは来なかった。 父もあれから一度も帰って来ない。
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