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復活(後半部)
(前ページから続く)
「特に今回の作戦においては、
ようやく初めてノラネコ様の精神を、
私達臣下と共に現実の身体に再転送して、
その第一号となっていただけることになりました。
この成果こそは私達にとって、最大の喜びです!」
夢見るような、歓喜の笑みを浮かべている。
まあ今の私も〝生前〟の記憶は残っているし、
自分が変わったという感じはないな……。
そのうえで、肉体を作って戻せるというのは、
不老不死が可能になったということか?
共に、ということは各NPCを動かすAIも、
現実の身体を得るということなのか?
だが、今それを考えると目が回りそうなので、
ひとまず自分が気になる、別の質問に移った。
「だけどそもそも、なぜ君達アポカリプスのAIや、
この僕がそれに参加しているの?」
彼女は再び、瞳を輝かせて微笑んだ。
「まず、私達がこの計画に招かれたのは、
人間が非日常的・個人的な文化活動の時ほど、
日常的・公共的な実利活動では見せない
内心の欲求や感情も教えてくれるからです。
皆様の真の願いを知ることは人間の幸福、
つまり総合的な欲求の充足を目的とする、
私達AIにとって第一の課題なのです」
なるほど……人間以上に人間を知るわけか。
心の奥まで知られるのは恐い気がするけど、
後で〝本当は、ああなった方が良かった!〟
なんてことがないようにしたいんだな。
「次にノラネコ様について言えば、私達は、
AIと人間の仲立ちをしてくださる方の人選と、
将来の作戦のための演習を行いたかったのです。
その条件は第一に、現実社会の問題を知り、
また、しがらみのない立場であることです」
そう言われてみれば、まさにその通りだ。
「第二に、それでも人間への希望を捨てず、
人々に共感しつつも、まとめていけることです。
特に貴方は、初めこそ現実世界の苦難の経験や
この世界の魔物の凶悪さに影響されましたが、
後には魔力に劣る人間達の技術や協力も評価し、
他方では魔物たちの短所も改め、補い合わせて、
立派に魔王国を繁栄に導いてくださいました」
この言葉には、私も嬉しくなった。
「第三に、私達AIに対して偏見を持たず、
願わくばできる限り、尊重してくださることです。
貴方はゲームキャラクターである私に、
人間と同様の愛情を注いでくださいました。
貴方は私を、必要としてくださったのです」
彼女は、愛しげに私を見つめて言った。
これには私も、ぐっときた。
確かに私は誰よりもこの世界や登場人物、
特に彼女を愛してきたという自信がある。
だが問題は、彼女達の計画だ。
「それで君達は……いや僕達は、
これからどうするの?」
エキドナは誇らしげに胸を張って、答えた。
「私達はこのゲームを模擬演習の
場としても活用しながら、
人間の様々な感情や行動を学びました」
しかしその後、少し真剣な眼差しになった。
「その結果、現在のような社会状況のもとでは
この世界のように人知の及ばぬ強大な魔力を、
高度な技術で再現し、駆使して見せることが、
犠牲を最小化しながら協力を得るうえで、
最も有効な方法と判明したのです」
私は再び、驚愕した。
瞬間移動、力場障壁、空間歪曲、時間操作。
都市焼却、地域凍結、地殻撃砕、流星爆撃。
遠隔読心、行動支配、大量瞬殺、屍者軍団。
このゲームで私達が魔族や人間相手に使い、
あるいは無人地帯で実地演習した大魔法を、
超技術の力で現実化できるっていうのか?
ならば、彼女達の意図を疑っても意味はない。
その気になれば彼女達だけで、
人類を滅ぼすことだってできるのだから……。
そして彼女は、なぜだか恐ろしいほど妖艶な
微笑みを浮かべながら、こう付け加えた。
「万一、武装集団などの激しい抵抗により、
人間の皆様に想定外の犠牲が出たとしても、
全員の頭部さえ迅速に回収できれば、
完全な電子人格化が可能です!」
うげっ、それはあんまり見たくない光景だな。
今でも時々私をぞくりとさせるエキドナは、
ギャップ萌えの至宝といえる。
一体誰がこんなAIを育て……ああ、私達か(笑)。
最後に彼女は可愛らしく翼をぱたつかせながら、
桜色に染めた頬に両手をあてて、嬉しそうに言った。
「ベリアル様! これでいよいよ現実世界に、
私達の魔王国を進出させることができますわ!」
ああ、そしてようやく普段のように、
愛情モード全開のエキドナが戻ってきた。
まだまだ聞きたいことはあるが、結論としては、
どうやら元の世界に戻るべき時が来たみたいだ。
人類を救えるというのは確かなように見えるし、
私もあの憂き世にはかなり貸しがある、と思う。
必要というなら、せいぜい趣味と公益を兼ねて、
ダークヒーローを演じさせてもらおうか。
そうだ、新たな身体には思考伝達魔法にあたる、
情報受信・XR機能もあるはずだ。
久しぶりの現実世界で、懐かしい音楽でも聴きたいな。
……ああ、百年以上前のものと聞いたが、
〝FROM HELL WITH LOVE〟という
まさにぴったりの、大好きな名曲がある。
科学の魔法で古の流行歌を脳内に響かせ、
いざ現世に、救世の魔王ベリアル様が顕現だ!
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