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友達の延長みたいな関係になるのかと思っていたら、ちゃんと恋人らしいこともした。
僕は誰かと付き合ったりするのは初めてだったし、勿論宗隆も同性と付き合うのは初めてで。
手探りで進めていくような、そんな恋だった。
初めて手を繋いで、初めてキスをして、それが段々深いキスに変わっていって。それから、初めて男同士のセックスをして。一つ一つを重ねていくみたいに、想い出が積み重なっていった。
深い深い、幸せに溺れていくような日々。いつこれが壊れてしまうのだろうという怖さが心の隅にあっても、僕はそこから目を反らして宗隆の隣にいることを選んだ。
「宗隆、手出して」
僕のマンションで一緒に過ごす時には、いつも宗隆の爪の手入れをした。 いや、俺男だし爪とかどーでもいいって、とめんどくさがる宗隆の大きな掌に自分の手を重ねる。
「いーからいーから。できる男は爪の先までつやつやなんだよ。それとも、ゴッテゴテにラインストーン付けてレインボーカラーにしてみる?」
仕事でお客さんと向き合う時は対面だけど、宗隆の爪を整える時は隣にぴたりとくっついて出来るのが嬉しかった。
長さを揃えた爪をやすりがけして整えた後、仕上げにオイルをつけて、ハンドマッサージをする。
セックスをする時よりも、僕はその瞬間の方が官能的だと感じていた。
指が細くて、長くて、ごつごつして男らしい宗隆の掌に、僕は直ぐに欲情してしまう。いつも仕事で触れる、すべすべして綺麗な女の子たちの手とは違う。そこに在るだけで僕を昂らせ、誘うような、掌。
両手でその掌を丹念にマッサージしていたら、ふいに僕の指に宗隆の指が絡んだ。
「……澪人の手、気持ちいいよな」
指を絡ませたまま、今度は視線が絡む。
そのまま唇が重なって、ゆっくりとソファーの上に押し倒されていった。
服が捲り上げられ、宗隆の唇が身体中に落ちていく。
僕はともかく、宗隆が気持ち悪がらずに男である僕の身体に触れてくれることがいつも不思議だった。同時に、宗隆に嫌だとか、負担だとか思われないように声や動きにはいつも細心の注意を払った。
女の子と違って濡れないそこは、宗隆を受け入れる時には準備をしないといけない。
「……準備、してあるから……もう……」
掌をマッサージしていたら、きっとそんな気持ちになってしまうだろう。そう思っていた僕は、お風呂に入った時に直ぐに挿れられるように準備してあった。
「ん……」
避妊具を着けた宗隆がゆっくりゆっくりと僕を貫いていく。
初めてそこに宗隆を受け入れた時には、内臓が抉られるように痛くて辛くて、気持ちいいなんてとても思えなかった。でもそんなことを言えば宗隆が二度と触れてくれなくなるような気がして、必死で感じているふりをした。
回数を重ねる毎に少しは慣れてきたし、気持ち良くなれる時もあるけど、それでも自分よりも宗隆に良くなって欲しい、嫌にならないで欲しい、いつも僕の頭の中はそんな想いでいっぱいだった。
眉根を寄せる宗隆が、詰めたような息を吐く。
嬉しい、宗隆が感じてくれてる。
それだけで僕の胸はぎゅっとなった。
揺れる視界の中、テーブルの上には置きっぱなしのネイルケアのグッズと、それから二匹並んだ白と黒のネコのキーホルダー。
それぞれの合鍵に付けてある、お揃いのもの。
一緒に遊びに行ったショッピングモールの雑貨屋で、買ったものだった。
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