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「宗隆、明後日の日曜日どこかに遊びに行かない? 久しぶりに、どっか二人で」
その日、仕事の帰り道。僕は宗隆にそんな電話をしていた。出来るだけ明るい声で、出来るだけ軽く。
こんな誘いすら、断られるのが怖くて気軽に出来なくなってから、もうどれくらい経つのだろう。いつの間にか週末も、前ほど会わないようになっていた。僕は会いたくても、宗隆がめんどくさそうにするのが怖くて、いつしか誘えなくなっていた。
それでもまだ、元彼女との約束は何かの勘違いで、僕と会ってくれるなら━━
胸の中にどろどろに渦巻く感情を必死に抑え、最後のチャンスを祈るような気持ちで、僕は宗隆の答えを待った。
『あー……悪い。その日は予定があって』
宗隆の答えに、このまま死ぬんじゃないかって、それぐらい強い胸の痛みが僕を襲った。上手く息が吸えなくて、目の前が暗くなった。
「……仕事……?」
『まぁ、そんなとこ』
嘘。嘘嘘嘘。……宗隆の、嘘つき。
「……じゃあ、仕方ないよね」
絞り出した声と、痛みはやがて、ある一つの結論へと僕を導いて行く。
「……明日は?」
『んー……、……まぁ、ご飯くらいなら大丈夫』
「……うん。いいよ、それでいい」
通話ボタンを切り終えた僕はぼんやりと空を見上げた。空っぽの心は、僕の辿るべき道を僕に告げていた。千切れそうな胸の痛みに、涙が溢れていく。 星のない夜空が、淋しい独りぼっちの僕を見下ろしていた。
翌日、僕は夕方までの仕事を終え、宗隆との待ち合わせ場所に行った。 ご飯を食べて、帰る? って言った宗隆に、もう少しだけ家で話がしたいと伝えた。
「話って、ここじゃ出来ないこと?」
宗隆が訊く。僕が黙って頷くと、彼は黙って僕の部屋まで一緒に来てくれた。
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