『猫に合鍵』

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「あ……っ、……っん……っ」 お湯を張った浴室内に、白い湯気が立ち込める。男二人じゃ狭い浴槽に足だけ浸かり、浴室の壁に手を付いて僕は必死に響く声を堪えた。後孔に舌先が触れる度に、小さく卑猥な水音が微かに耳まで届いていた ちゅ、ちゅる…… 砕けそうになる僕の腰を両手で支え、宗隆は浴槽内に腰を下ろして胸の辺りまで湯に浸かったまま。 これで最後と思っているからだろうか。 宗隆はいつもより丹念に、執拗なくらいにそこに舌を這わせる。 「あ……っ、ぁあ……っん」 お風呂で準備してくると言った僕に、宗隆は一緒に行くと言った。そんなことを言われるのは初めてで、どうしようかと迷っている内に、宗隆は僕の手を引いて浴室へと向かった。 「やっ……、宗隆……っあ……っ!」 長い指が差し込まれた異物感に、思わず声を上げた僕は、口に押し当てた自分の手首を噛んで、続けて上がりそうになる嬌声を飲み込む。 最後にしたのはいつだっただろう? 宗隆としなくなって、あまりに切ない時は時折自分ですることもあった。 でもそこに自分の指以外の何かを受け入れてなかった期間が長過ぎて、驚くほど新鮮な感覚が僕の身体を震わせた。 「痛くない?」 「……大、丈夫」 「声、押さえないと外に聞こえる?」 「多分……っ、……っんぅ」 狭い浴室に窓はない。小さな換気扇がカタカタと回ってるだけだ。 きっと防音なんて呼べるような作りにはなっていない。 浴室内に反響する自分の声が恥ずかしくて、苦しくて、奥歯に力を入れて唇を噛んだ。 ローションを垂らした指を一本、二本と宗隆が増やしていけば、湿気なのか汗なのかわからない水分に濡れたそこが、くちゅくちゅと音を立てる。 身体を起こした彼が、僕を包み込むみたいに後ろからぎゅ、と身体を密着させた。 「手首……噛むなよ。血が滲んでる」 「駄目……っ、声が、漏れる……」 僕が噛んでいた左の手首を取り、宗隆はそこに舌先を這わせた。 同時にお尻の辺りに当たる硬く猛った彼の熱を感じ、期待感に胸が高鳴る。彼がまだ僕に反応してくれることに酷く安心すると同時に、これが宗隆の体温を感じる最期の瞬間だと感じて切なくなった。 「……っ!?」 『寝室へ行こう』って、そう言われると思っていたのに、ソレはゆっくりと濡れそぼった僕のそこに侵入してきた。 「……っ、宗隆?」 「ごめん、挿れたい」 「やっ…!? は……っ、……あっ、あぁっ!!」 久々に感じる、肉を割り入って侵入してくる、凄まじい程の質量。 何度受け入れても慣れることができないこの瞬間に、思わず力が入る。 「……っ、澪人力抜いて」 「ん……っ」 宗隆に言われて何とか呼吸を繰り返す。痛みが熱に変わり、全身を電流のような感覚が巡る。 この感覚を忘れない。忘れたくない。 刺激に貫かれながら俯く僕のうなじに顔を埋め、そこに何度も何度も唇で触れながら宗隆は腰を進めていった。
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