『猫に合鍵』

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ベッドに着いた宗隆は、また僕の身体を丹念に愛撫し始めた。唇で、指で僕を溶かしていく 丁寧で、優しくて、残酷で、胸の中がかき乱される。 それはまるで別れの儀式のようで、僕は泣きながら何度も何度も身体を震わせた。 避妊具を着けた宗隆が再びゆっくりと挿入(はい)って来る。もう痛みは感じなくて、ただただその熱を全身で受け止めた。 涙が溢れて、苦しくて、気持ち良くて、愛おしくて。 それが、辛い。悲しい。 宗隆の体温が、痛い。 このまま宗隆の中に溶けてなくなってしまえればいい。昔読んだ童話の人魚みたいに、泡になって消えてしまいたい。 溶け合って混じり合いたいとどれだけ心で願っても、僕と彼が重なった部分は否応なしに互いの輪郭を意識させ、宗隆と僕があくまでも他人であると突き付けてくる。 宗隆に揺らされながら、涙だけが溢れる。 伸ばした掌が触れる先に、宗隆の温かな頬がある。 好きだ。好きだよ。離れたくない。 悔しいよ。苦しいよ。嫌だよ。 宗隆、宗隆━━ 「……ごめん、澪人」 「……っ、ごめん……なんて、聞きたくない」 宗隆が何に謝っているのかなんて分からない。知りたくない。 そんなの要らないから、僕のことを好きだって、まだ好きだって言って。 最後なんかじゃないって、彼女のとこになんて行かないからって。 ずっと傍にいるって。 そう言って欲しいのに━━…… 宗隆はちゃんと僕で気持ち良くなってくれているかな。 この先少しでも、僕のことを思い出して、楽しかったって思ってくれる日があるかな。 「俺、男と付き合ってたことあるんだ」って、友達なんかとお酒のネタにしたりする? 僕は、僕は━━……きっと一生、この恋を忘れられない。 宗隆のことをきっとこの先も、情けないくらい想い続けていくんだ。 僕を突き上げる宗隆の動きが速く深くなる。それはこの繋がりの終わりが近いことを告げていた。 ぎゅっと抱き合うように身体を密着させる。宗隆の全部を身体に刻み込みたかった。終わりが来ることを拒みたかった。 「いくよ」、そう小さく言った宗隆の身体が震える。 もう二度と感じることが出来ない宗隆の熱を、僕は泣きながら受け止めた。 宗隆の唇が僕の唇に重なる。 それはどこまでも甘くて悲しい、僕と宗隆の最後のキスだった。
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