『猫に合鍵』

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僕と彼との出逢いは、ありふれたものだった。 互いに入学したばかりの大学で、同じ講義を受けていく内に自然と友達になった。大学生活に慣れ、段々と他に友人が増えていっても、僕と宗隆はいつも近くにいた。 別に特別仲が良かった、という訳じゃない。 ただ、趣味や話題が合ったり、気を使わなくていい空気感が凄く心地良かったり。 特に会話なんてなくても気付けば近くにいる。宗隆はそんな友人の一人だった。 指通りの良さそうな、黒くてさらさらとしてまっすぐな猫っ毛も、切れ長で凛とした目も、端正な面差しも。そっけなく見えて実は何にも考えていないところも、笑うと可愛いところも。 ……それから、僕の恋愛対象が同性だと打ち明けても、引かずにいてくれたところも━━。 宗隆のことを一つずつ知っていく毎に、全てが眩しくて、愛しくて。 いつしか僕は、恋に落ちていった。 自分の恋愛対象が同性であるということに気づいたのは、宗隆に出逢うずっと前。それを誰にも打ち明けることなく生きてきた。 大学生だというのに彼女もいない、コンパも行かない。 そんな僕に、 「澪人って女がダメなの?」 とにやにや笑いながら言う友人には、いつも曖昧な笑顔を返した。 誰彼構わずカミングアウトできるような強い心なんて持ち合わせていない。 冗談めかして誤魔化すような器用さもない。 付き合いが長くなっていくに連れ、友人達にからかわれることが増えていった僕を、宗隆だけは一度も笑ったりしなかった。
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