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友達になって二年目、大学二年生の夏。
それを打ち明けようと思ったのは本当に思い付きだった。
講義の後に二人だけ取り残された教室。眠そうに参考書をしまう彼の横顔を見ていたら、胸が軋んだ。
きっと、楽になりたかったんだと思う。
宗隆が好きだなんて言えない。
自分の恋愛対象が同性であることを打ち明け、拒絶されれば少しは諦めがつくと思った。彼は違う世界の人間なんだと思い知れば、この想いもいつかきっとどこかへ消えてくれる。そう思った。はち切れそうに膨らみ続ける想いは、いつもどこか逃げ場所を探していた。
「あのさ、宗隆」
「んー?」
間延びした声には、欠伸が混じっている。
「……引かずに、聞いてもらいたいんだけど」
「おー」
段々と自分の鼓動が早くなっていくのがわかった。手に汗が滲む。
「皆からかうじゃない、僕のこと。女に興味ないのかって」
「あー」
「……あれ、ほんとにそうなんだ」
引かずに聞いてもらいたいということ自体、贅沢な願いだと分かっていた。きっと、こんな僕のことを宗隆は気持ち悪いやつだと、そう思うだろう。
誰だってそうだ。それが普通なんだと自分に教えてやりたくて、必死に笑顔を作る。宗隆が今どんな表情をしているかなんて、考える余裕はなかった。
「何が」
言ってる意味がまるで分からない、という顔で宗隆が僕を見る。
「……女の子に興味ないんだ、僕。……好きになるのは、同性だから」
耳にまで届く心臓の音が激しくて、俯いたまま張り付けた笑顔は歪んでいるような気がした。
それから、僕が好きなのは宗隆。
今にも飛び出しそうな言葉は胸の奥に秘める。
僕が同性を好きなことと、宗隆を好きなこと。二重に気持ち悪い思いはさせたくなかった。
「……」
一秒にも永遠にも感じる時間の後で。
「そう」
彼から返ってきたのはたったそれだけだった。
たった、それだけ。
思わず顔を上げた僕の目に映る宗隆は、いつもの宗隆だった。
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