『猫に合鍵』

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彼女のことを忘れられず、新しい恋を見つけることも全く上手く出来ない。 そんな宗隆を見兼ねた頃には、僕の片想いも六年を過ぎていた。 別れて半年が過ぎても、彼は彼女への未練を口にすることなんてない。でも、以前より明らかにお酒の量が増え、酔い潰れてしまうことが増えた。そんな今までにない彼の姿を傍で見ながら、募る想いはもはや僕の一部になってしまった。 タクシーを降り、ふらふらする宗隆に肩を貸しながら、宗隆のマンションの部屋の前に辿り着く。 「宗隆、鍵どこ?」 「ん〜〜?……ポケットのどっか」 ……宗隆への『好き』が過ぎて、僕は彼のポケットの中に手を入れることすら何だか意識してしまう。 遠慮がちにごそごそと宗隆の上着やズボンのポケットをまさぐれば、ブランドもののキーケースに行き当たった。 キーケースには部屋の鍵の他にも、宗隆の車の鍵や職場のロッカーの鍵なんかが付いていて。取り出した時にそれらがシャラ、と小さな音を立てた。 前から気付いていたけれど、宗隆のキーケースには、彼の部屋の鍵が二つ付いてある。 「……これ、スペアキーの意味ないでしょ」 僕が言っても、んー?そうかもなぁ、と要領の得ない返事しか返って来なくて。 ……きっと、彼女から返って来た合鍵なんだってことは直ぐに思い当たった。 こんなことにもいちいち胸が痛む自分が情けない。 溜め息が出そうになるのを堪えながら二つ並んだ鍵の内の一つを取り出し、鍵穴に差し込んだ。 カチャ、と小さな音がして、玄関の扉が開く。 「気持ち悪ぃ……」 部屋に入るなりトイレに駆け込んだ宗隆の背を(さす)るのも、もう慣れっこになってしまった。 彼は最近ずっとこんな調子だ。 少し痩せてきた身体も心配だし、何よりこんな姿を見ていると僕にまで彼の胸の痛さが伝染する。 一通り吐き終えてぐったりと座り込む彼に、水を持って来ると告げて僕はキッチンへ向かった。 居酒屋に行った後、どちらかの家で飲み直すことも多かったから、宗隆の部屋のどこに何があるか、そんなのもすっかり覚えてしまった。 二つ並んだペアのグラスや、宗隆じゃ絶対選ばないような色のキッチングッズに、未だに宗隆が捨てきれない彼女の痕跡を見つけてはへこんでしまう自分。いい加減に慣れろ、そう自分に言い聞かせ、適当に選んだグラスに水を注いだ。
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