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【 ホンギ 】
それから光莉は、どんどんとこのニュージーランドの地に溶け込んで行った。
学校での勉強や行事、在校生や留学生たちによる各種交流イベント。
休日には、光莉のリクエストで羊の群れを見に行ったり、ファンガパラオア半島の先端まで行き大海原を見に行ったり、街の美味しいスイーツ店でホーキーポーキーを食べたり、いつの間にか光莉との距離はどんどんと近づいて行った。
僕はいつしか、光莉に夢中になっていた。
彼女を好きになってしまったんだ。
半月が過ぎた頃には、僕は彼女の部屋へとよく遊びに行くようになった。
「光莉、マオリ族の挨拶って知ってる?」
「えっ? マオリの挨拶?」
「マオリ語で『Hongi』って言うんだけど、こうやるんだ」
僕は彼女をベッドへと座らせると、お互いに向かい合った。
そして、光莉の顔にゆっくりと近づき、彼女の小さな鼻と僕の大きな鼻は、やがて触れ合った。
「ウィレム……」
「これがね、マオリ族の挨拶。伝統的なマオリの文化。親しみを込めて、この挨拶を交わすんだ」
彼女は初めは驚いた表情を見せていたが、僕の言葉を聞いて安心したのかゆっくりと笑顔で瞳を閉じた。
「光莉、君に会えて嬉しいよ」
「ウィレム、私も……」
そう言って、鼻を付けたまま彼女の綺麗な額にも触れ合う。
「光莉、愛してる」
「ウィレム……」
少し震える彼女の小さな体を両手で抱き寄せると、くっついていた鼻と額を離し、お互いの唇はゆっくりと潤いながら色付いてゆく。
僕は母と同じ血が流れる光莉に
恋をした……。
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