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【 面影 】
バックウェルさんの家は豪邸だ。敷地も広く地下室のある平屋だが、部屋の数は10以上あり、僕自身もまだ全ての部屋を見たことがないほど。
バックウェル家は、夫婦で大学教授をしており、このガルフハーバーでも仲が良いと評判な家庭。
子供に恵まれなかったせいもあり、日本から来た留学生をホームステイとして毎年この時期に受け入れているのだ。
この地域は、ニュージーランドの北島、オークランドから1時間ほど北に行った、通称マウイの魚「Te Ika-a-Maui」にあるファンガパラオア半島にある小さな町だ。
こんな異国の地に彼女が一人で来るのは、嘸かし勇気のいる決断だっただろう。
「光莉、電気はここで、エアコンはこれで調整して。あと、このベッドは自由に使って。寒かったらもう1枚温かい毛布をバックウェルさんに頼んでおくので、いつでも言ってね」
手際よく光莉に説明すると、彼女は口元に手を当てながら、居心地悪そうにしている。
「ありがとう、ウィレム。こんな自分のお部屋まで用意してもらって、何だか申し訳ない気もする」
「ははは、光莉、遠慮は無用だよ。これから1か月、僕らは一緒に家族としてここで暮らすんだから」
「ウィレムは、バックウェルさんの家に来てどれくらいなの?」
「僕は、もう1年くらいになるかな。元々、故郷はロトルアという街なんだけど、ここから車で3時間くらい南へ行ったところだから、ファンガパラオア・カレッジに通うのが遠くて難しいんだ。だから、バックウェルさんの家に居候しているってわけ」
「へぇ~、確かにそんなに遠くじゃ学校へは通えないわね」
「そうなんだ。バックウェルさんは本当にやさしくしてくれるし、善意でこうして受け入れてくれるので助かってる。光莉みたいに日本人の留学生もホームステイさせているから、日本語がしゃべれる僕がいると、何かと重宝するだろ。お互いにメリットがあるからさ」
栗色の短い髪に、茶色の瞳をした東洋人。色白の頬にできる笑窪は、僕の母にどこか似ている。
懐かしさを感じるのはそのせいだろう。
褐色の肌でなければ、彼女に顔が赤くなっていることを知られていただろう。
僕の顔を見ては、恥ずかしそうに視線をズラす光莉に、僕も思わず何もない天井を見上げた。
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