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【 光莉 】
「長旅で疲れているだろう? 今日は休日だから、少し休むといいよ。夕食の時間になったら、呼びに来るから」
「ありがとう。ウィレム」
彼女の部屋を出て扉を閉めると、フゥーっと大きく息を吐いた。
何だか不思議な気持ちだ。思わず笑顔になっている自分に気付く。彼女のために、美味しいマオリの郷土料理を作ってあげたくなった。
――夕食時、光莉を食堂へ招待する。
「わぁ~、すごい! 美味しそう!」
「Hikari,Please eat a lot」
「光莉、沢山食べてね」
ソフィーさんが作ってくれた野菜と挽肉のたっぷり入った美味しそうに焼き上がったパイに、僕が3時間かけて庭で作ったマオリの伝統料理『ハンギ』が食卓にズラリと並ぶ。
フォークで一口彼女がハンギを口にすると、頷きながら僕ら三人の顔を順番に見て言った。
「Yeah,Delicious!」
彼女は目を大きく見開き、その料理に驚いている様子。日本ではあまり口にしない料理なのだろう。
「光莉、食べられそう?」
「うん、美味しい! これ何ていう料理なの?」
「これはね、ハンギっていうマオリの伝統料理なんだ。肉や魚や野菜を地熱で温めるんだけど、バックウェルさんの庭に穴を掘って、そこに焼き石を敷いて食材を蒸し焼きにするんだ」
「へぇ~、そうなんだ。だからほのかに燻製のような香りがするのね。お肉もほろほろで美味しい♪」
「はは、光莉のお口に合って良かったよ。ソフィーさんのパイも絶品だから食べてみて」
「うん、ありがとう」
光莉の笑顔になぜだか心が躍る。
僕の体の中にある千年以上前から続くマオリの血と、もう一つの全く異なる遠い異国の血がそうさせるのかもしれない。
食後、僕らはふたり並んで食器を洗った。
体の大きな褐色の肌をした僕と、体の小さな色白の肌をした光莉は、この短時間でいつしかお互いの腕が触れるくらいの距離へと近づいていた。
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