【 マオリの血 】

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【 マオリの血 】

 学校から帰ると、僕は庭で夕食にバーベキューをしようと提案した。  バックウェルさんも賛成してくれて、みんなで光莉を改めてお祝いすることにした。 「Hikari,Welcome to New Zealand!」 「Thank you everyone」  光莉は、この時のために用意していたのか、日本から持ってきた浴衣(ゆかた)というものに着替えていた。  白色の生地に紫色の花が開いた、光莉にとても似合う素敵な浴衣だ。ここでは少し寒いが日本ではこの時期によく着るのだという。  思わず、その浴衣姿にドキリと胸が躍った。  みんなでバーベキューを堪能しながら、僕は光莉のためにとっておきのものを用意していた。  それは……。 「光莉、マオリ族の民族舞踊『ハカ』って知ってる?」 「うん、テレビで見たことがある。オールブラックスがラグビーの試合の前に踊っているあれよね?」 「そう。今から僕がやって見せるから見ていて」 「うん」  大きな声を発し、力強くハカを舞い始めると、光莉もバックウェルさん夫婦も真剣な表情で見つめていた。  ハカは本来、マオリ族の戦士が戦いの前に手を叩き足を踏み鳴らして自らの力を誇示する舞踏だが、相手に対する敬意や感謝の意を表する舞としても披露される。  そして、僕が舞い終わる時には、みんなから拍手の嵐が。 「すごーい! ウィレム、かっこいい! すごく素敵だった♪」  彼女の弾むような声に、僕も思わず照れ笑いをした。  この大きな僕の褐色の体の中には、半分マオリの血が混ざっている。  そして、あと半分は光莉と同じ血が……。  そう、僕の母と同じ、日本人の血だ。
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