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【 プロローグ 】
シャシャシャと音を立てて、その黄金に輝く光の小さな宇宙は右に左に広がった。
子供の頃に一度だけ母に見せてもらったそれとは少し違う。
どこか物悲しく、切なさを帯びている。
君とふたりで見たあのガルフハーバーでの冬の花火ともちょっと違う。
バックウェルさん家の大きな庭で見た、ほのかな光に揺れるやさしい君の笑顔。今よりももっと輝いていた。
紫色の名前も知らない日本の花が開く浴衣姿で、僕の前にちょこんと座り、短い栗色の髪を耳にかける仕草に魅了された。
「ウィレム、日本の花火って奇麗でしょ? でも、なぜだか切なく感じるの……」
目を潤ませた彼女の言葉に呼応して、気付くと輝きを失ったそれはポトリと寂しく落ちていく。
僅かに光る地面に落ちたオレンジ色の玉をぼんやり見つめていると、一瞬にして目の前の君をこのマオリの島で見失った。
湿気った花火は嫌いだ。
すぐに消えてしまうから。
初恋は、そんなものに似ている。
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