炎火《ほむらび》

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ある暑い夏の事だった 俺の仕事は室内装飾の職人だ 戸建やマンション 、デパート、病院等に壁紙や 絨毯を等 室内全てをする仕事だ 今流行りのリノベーションってヤツだ 会社は都内から少し離れた場所に有る 今日も一戸建て住宅の仕事に来ている 真夏の仕事はキツイ クーラーをつけると糊が乾き易くて 窓を開け 仕事をする事が多いからだ 最悪の猛暑日には つける事もある 「クソ暑いな〜」 現場は大きな2階建の特注建築の家だ 洗練されたシャレた白い家の住人は留守で リホームが入るから、 お手伝いさんも休みを とっていると聞いていた 誰も居ないので気が楽だ 大きな門扉は両開きで鍵を開け車を入れた 部屋に入ると 立派な家具が揃っている 図面を見て1階の奥の部屋が現場だ 廊下やリビングも高そうな家具や置物絵画が 掛けてある 大理石の床に暖炉 まるで外国の様な重厚な ドアーがズラリと並んでいる 地下室も有る様だ 「どうしたら こんな贅沢な家に住めるんだか スゲェ家だな」 奥の部屋だけ家具も何も無かった 「暑っ〜 ムッとするな 長い間 開けて無かったのか」 カーテンを開けると 大きな硝子戸があり 庭が見渡せる 硝子戸を開けるといい風が吹いていた 広い庭で植木やガーデニングが好きなようだ 美しい花が咲き乱れている 「デカイ庭だな 俺の部屋何個入るんだ? どうでもいいか、さてと仕事だ ん?何だこのシミは?」 拭き忘れたのか黒い小さな塊が床にこびりついていた 「チッ! 拭き取るしかねぇな」 俺は布を濡らし それを拭き取った 暫く クロスを張っていた時だった 何故か ずっと誰かに見られている様な 視線を背中に感じ 俺は振り返り声をかけた 「 誰かいるのかぁ?」 当然返事は無い ただ 俺の声が空っぽの部屋に響いた 不思議だったのは 全ての部屋は張り替え済みで まだ新しいのに何故か この10畳程の部屋の クロスと絨毯だけの 張り変えだった 「お手伝いさんの部屋だったのか? それにしては広いし 日当たりもいいし....」 床はフローリングで真新しいが ワインでも こぼしたのか 黒いシミが消えず クロスにも飛び散って 変えるのだろうと、気にも止めず ひたすら仕事をこなしていた 「張り替えが済んでるのに、なんでワインなんか 呑んでシミをつけるかなぁ 金持ちのやる事は訳わからねぇ!」 ブツブツ言いながら 大汗をかき 仕事は終わった 道具を片付け 出たゴミをビニール袋に何個も詰め車に放り込んだ 鍵の点検をし玄関を出た 「あぁ〜クソ暑い!」 蝉時雨がうるさくて 余計に暑く感じる 玄関の有る方の庭にも 大きな桜の木や 他の木も 綺麗に手入れされている 春には 綺麗な桜の花が立派だったろう 大きな門扉に鍵を掛け 車に乗り込んだ 「ふぅ〜疲れたぁコーヒー、コーヒーっと」 俺は自前のクーラーボックスから 冷たいコーヒーを取り出し飲み干した 俺は桐生 海斗、24歳 高校卒業し直ぐに 正社員として働いている いつの間にか年月が経ち 仕事も覚え 一人で任される様になっていた 「さてと、帰るか」 俺は車のクーラー全開にし 会社に帰るだけだった
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