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 居酒屋の席に着くとまず僕はビール、麻子さんはレモンサワーをそれぞれ注文した。  乾杯をして料理が運ばれてくる間とりとめもない会話をする。もっと他に聞きたい事はあったが、僕はしばらく様子を見ていた。  その後麻子さんが話してくれたのは、主に絵の話。物心つく前から絵を描くのが好きで一人でずっと絵を描いていた。小学生の頃から絵を仕事にしたいと思い始めた。美大に行ってレベルの違いに愕然としたがやっぱり絵を描く事はやめられない。  現実を見つめながらも夢を語る彼女の姿は、今の僕には正直眩しかった。 「なんか私の話ばっかりだね、退屈じゃなかった?」 「まさか、楽しいですよ。あ、おかわり頼みます?同じので良いですか?」 「うん」  あの画家の絵のどこがどう凄い、とかの話なら確かにあまり興味も無いし退屈だろうけど、麻子さんの話だったら何でも興味深い。  ビールとレモンサワーをもう一度注文してから僕はハイライトを咥えてマッチで火をつける。 「梶原くんて、いつもマッチなんだね。それも、うちの店のマッチ……」 「あぁ、なんか、好きなんですよね」  あの喫茶店へ行くようになって、行く度にマッチを貰うようになって以来、僕はタバコに火をつける時はいつもマッチを使っていた。 「でも、そっか、今まではいつもマッチ貰えてたから良かったけど、これからはもうそれも無いんだなぁ」  マッチくらい探せば売っているだろうけど、わざわざ買ってまでマッチを使う事は無いだろうな。 「梶原くん、あの、これ……」
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