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 麻子さんはそう言って綺麗に包装された小さな何かを僕の前に差し出した。 「え、これ……」 「えっと、この前のお詫びと、卒業のお祝いを兼ねて」 「えぇ?そんな……」 「全然たいしたものじゃないから、気にしないで」 「開けても、いいですか?」 「どうぞ」  遠慮がちにその包みに手を伸ばし、包装紙を剥がして中の箱を開ける。  中身は、白いライターだった。 「……うちの店のマッチね、もうやめることになって今ある分で終わりなの。梶原くんいつも使ってくれてたから申し訳ないなと思って、それも含めて、だから本当に気にしないで貰って欲しいんだけど、あ、趣味じゃなかったら無理に使わなくていいし」 「いや、使いますよ、ありがとうございます」 「……まさか、引っ越すとは思ってなかったから、今日渡せて良かった」  僕が居なくなる事を寂しいと思っていてくれているのか、麻子さんの悲し気な表情に胸が苦しくなる。 「……置いて行かれるのも結構辛いもんなんだね」 「え?」 「私ね、実は留学しようと思ってて、どうしても、もっと広い世界で絵の勉強がしたくて、諦めきれなくて、……でも、おじいちゃんにはまだ言えてなくて」  あぁ、おじいちゃん、『ガンボ』のマスターの事か。  危ない、勘違いするところだった。
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