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「そっか……。梶原くんのあの白いギター、良いよねアレ。楽器とか音楽とか私は詳しくないからよくわからないけど、なんか、良いなって思って、すごく印象に残ってる」 「……ありがとうございます、麻子さん一回しか僕らのライブ来た事ないはずなのに、よく覚えてますね」 「あぁ、うん。アヤノちゃんからも誘われるしもっと行ってみたいんだけど、昼間働いてる分夜はちょっとでも集中して描きたくて、ごめんね……」 「あ、いや、責めてるわけじゃないですよ、謝らないでください」  僕らの遊びのライブより麻子さんの人生を賭けた創作の時間の方が大切なのは当然だ。  彼女は美大を出た後、絵で生計を立てられるようになるため昼はアルバイトをして夜は寝る間も惜しんで絵を描いているらしい。   「まぁでも、卒業したらライブする機会当分無いと思うし、最後くらいは来てくれたらうれしいですけど……」 「……そっか、そうだよね」 「無理にとは言わないですけど、……あ、もうこんな時間、約束あるんでそろそろ行きます」  時計を見るともう間も無く三限が終わる時間だ。  この後サークルの部室のスタジオで練習がある。  いつもの事ながら珈琲一杯でそこそこ長い時間居座ってしまった事を少し申し訳なく思いつつ代金を支払って席を立つ。 「……じゃあ、また来ます」 「うん、いつもありがとう」  麻子さんがカウンターから見送ってくれる。いつも通りの光景だ。  店を出てから溜め息をついて十二月の空を見上げる。  今日もまた、何も、言えなかったな……。
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