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 年内と、年が明けてからも何度か麻子さんの働いている喫茶『ガンボ』を訪れてみたが、その度に誰かしら知り合いがいて、二人でゆっくり話せる機会は結局あの日以来無かった。  僕はとっくに希望した会社の内定も貰っていて卒論も後は提出するだけ、と言う所属している軽音サークルの中では浮いてしまう程優等生だったので(…それが普通だと僕は思うんだけど)、タバコ一箱を交換条件に卒論を手伝ってやったり、バンドの練習をしたり、残り少ない大学生生活をやり過ごしていた。    そして、卒業前の恒例行事、サークルの卒業ライブ当日。  僕らのサークルの卒業ライブは毎年外部のライブハウスを貸し切って行われる。参加するのは部員と後はたいていOBや関係者ばかりだが一般の参加もOKだった。  僕はあの後改めてライブに来て欲しいと麻子さんに言う事は出来なかったが、アヤノが誘ってくれていて、麻子さんも行くつもりでいてくれているというのは聞いている。  だけど、ライブ中はゆっくり話す事なんてまず出来ないので、集合時間より少し早く一人暮らしをしている自宅アパートを後にすると、愛用のフェンダーストラトキャスターと共に喫茶『ガンボ』へ向かった。  通い慣れた店の扉を躊躇なく開ける。  見慣れた店内のカウンターに居たのはこの店のマスターのみで、麻子さんの姿は無かった。  せっかく来て目的の人がいなかったからとそのまま引き返すのも失礼なので、いつものブレンドを頼みいつものようにハイライトにマッチで火をつける。  サークルのライブ前に大学近くの喫茶店にわざわざ来るのは僕くらいで店内には知り合いも居なかった。  麻子さんが居ない理由が休憩中か休みなのかわからないが、もしかしたら今日のために休みを取ってくれたのではと期待をして自分を奮い立たせる。  タバコを二本を吸い終えカップの底で冷めた珈琲を飲み干すと席を立ち、いつものように会計を済ませると今度こそライブハウスへと向かった……。
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