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「ほんとに、ごめんなさい」
「いや、そんな謝る事ないですよ、サークルのライブなんてたいしたもんじゃないし、出番だって短いし」
「……でも、私も見たかったから」
観てもらえなかった僕より観られなかった麻子さんの方がよっぽど悔しそうで僕は何となくそれだけで満足だった。……それで、もう充分だ。
「麻子さん、僕、今日ここに来たのは、その、お別れを、言いに来たんです」
「……え?」
「来月から働く会社、ここから遠いんで引っ越すんです。だから、もうこんな風に来る事も出来ないから」
「遠いって、どのくらい?」
「んー、新幹線で一時間位かな」
「……そう、なんだ」
「はい、今までありがとうございました。麻子さんも絵、頑張ってください、遠くからですけど、応援してます」
「……うん」
「じゃあ、もう僕、行きますね」
珈琲一杯分の代金をきっちり置いて席を立つ。
「え、あ、待って、あの……」
扉を開けて出て行こうとした僕を麻子さんが慌てた様子で追いかけて来てくれた。
「……どうしたんですか?」
「うん、……梶原くん、今日この後って、予定ある?」
「……いえ、特には、無いですけど」
「なら、良かったら、私もうすぐ仕事終わるし、一緒に食事でも行かない?……最後だし」
「……是非」
願ってもない、最高のお誘いだ。
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