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「殿下……あの」
「うん? どうした?」
そう言って私を見上げた目は、ほとんど黒に近い濃紺の色。髪は太陽のような金髪。
彼はにこりと微笑んだ。
「いえ、その……そろそろ仕事に、戻らなくては」
しどろもどろ言った。
私は指先を軽く握られている状態だ。
振り解こうとしたら解けるのだ。でも、それができない。
私がこの城に仕える奴隷だからという理由だけではない。この男の普段の私への言動、行動を鑑みるにそれをしたからといって、私の首が飛ぶからではない。
心の底では、私もこの男と一緒にいたいのである。
「白樺宮の主は第一王子であるこの僕だ。君は白樺宮で働いているんだ。主である僕が頼んでいるのにどうして?」
ソレイア王国の第一王子、ウルリッヒは私室の豪奢な長椅子から身を起こした。口調は穏やか。圧は全く感じない。
そう、こういう男なのだ。
本当は奴隷である私が話しかけること自体不敬であるというのに……どうすればいいのだろう。
今日こそもう会うのはやめにしましょうと言おうと思ったのに、私はどうしてもそれを言えなかった。
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