本日のおとめ座は絶好調です

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 先輩たちの最後の大会があっさり終わった。相手は強豪、特にこの10年はベスト8漏れをしたことがないチームだった。善戦したと思う。でも勝ちには届かなかった。  もう少し先輩たちと部活をやりたかったと、女々しくも思ってしまう。これからは自分が主将(キャプテン)としてみんなを引っ張っていかなくてはいけないのにな。  部室に忘れ物を取りに行くと、部室が開いていて、中から先輩の声が聞こえてくる。いつもの調子だな、こりゃ。ただまぁ、退したんだし、また少し様子が違うのかも。そう思いながら、部室をのぞいてみる。  「せんぱーい、まーた女連れ込んでんですかー?」  なーんて、からかい気味に声をかけたつもりだったのに。  「っ‼佐々木か!たす、助けて。」  大塚先輩が梅木先輩に襲われてた。長椅子に大塚先輩を押し倒して、梅木先輩が馬乗りになってる。長い髪が垂れて、梅木先輩の顔が見えないけど、間違いなく俺に殺意を向けている気がする。  「…なにエロ漫画の導入みたいなことやってんですか?あ、やば。」  思わず声に出てしまった。これは不可抗力。  「なーにか用?佐々木くーん?」  「忘れもの取りにきただけっすよ、姐さん。邪魔しないんでごゆっくり。」  「そう、ならいいよ。さ、ちゃちゃっともってって。ついでに窓とドアのカギ閉めて行ってね。」  「うーっす。」  「まって!佐々木ちょおまっ!梅木をどうにかしてくれよ!」  「嫌っすよ、刺されたくねーですもん。…それに、引退して恋愛解禁でしょ?いいじゃないっすか相思相愛なのに。」  「違うから!」  「違うんすか?」  「チガウノ?」  姐さんの腹の底から出したようなドスの効いた声に大塚先輩も俺もちょっとビビってしまった。普段からこんなやり取りは見てきたけどは本気っぽいな、姐さん。関わりたくねーなー。でも大塚先輩がこのままじゃマジで喰われそうだしなー……あこがれた先輩の情けない姿は見たくないし、晒してほしくもないなー。  「わかりました。姐さん、少し落ち着きましょう。引退して大塚パイセンもなくなってんです。今更急ぐ必要もないでしょう。パイセンも、適当に逃げようとするから姐さんがこうなってんですよ?とりあえず姐さんは降りてください。」  二人は第三者(おれ)の介入で、落ち着きを取り戻しつつあった。…姐さんは「殺すぞ」って視線を向けてくる。福原経由で仕返しが来るぞこれ。嫌だなー。  などどいいつつも、本当はこんなやり取りができることに少しうれしさがあるのも事実。やっぱ先輩たちのことが好きだなーって思ってしまう。  「それで、姐さんの気持ちは言わなくてもわかります。問題は大塚先輩っすよ。なんで応えないんすか?引退したのに。」  「引退するまで恋愛禁止。うちの部の規則だ。その制約がなくなったからって、すぐに恋愛始めるのは……ちょっとどうかとおもんだよ!」  「「初心かよ。」」  きりっとした顔で出てきた言葉がそれって。思わず姐さんとハモってしまった。  「そもそもその謎規則を律儀に守ってたのって、君と、佐々木君だけだよ。」  「…うぇ?」  「先輩マジで知らなかったんですか?」  「え、だってほかの連中も彼女いないって言ってた。」  「じゃ、天と地の差があるんすよ。2年1年には彼女彼氏持ち、そこそこいますよ?」  先輩は寝耳に水状態。  「…佐々木も、恋愛してたのか?」  「いや、俺はしてないっすよ。俺はそんなバカげた規則を忠実に守ってきた先輩を心の底からリスペクトしてたので。先輩が引退するまでは俺も恋愛禁止の自制をかけてました。」  「フクちゃんは佐々木君のことが大大大大大好きなのに、君の制約に付き合ってたせいで高校生活の半分を無駄にしてたからね、君への殺意があっても当然でしょう。」  「ああああああ!いろいろ合点がいってしまうぅ!」  頭かかえて悶絶する先輩を俺も姐さんも、かわいいなぁって見つめてしまう。スペック高めなのにいろいろ間抜けなところが先輩のいいところだ。だから(福原を除く)みんなが先輩を慕っているし、尊敬もしている。  しばらく悶絶してた先輩が落ち着き始め、漂う気まずい空気。梅木先輩が大塚先輩には見えないように『さっさと出て行け』とハンドサインを俺に送ってくる。  「…それじゃあ俺はそろそろ出ていくっす。お二人とじゃれあえて楽しかったっす。」  「お、おぅ。引継ぎ資料ができあがったら、また連絡するわ。」  「…あ、そーだ!佐々木くーん。この後フクちゃんの告白受けに行くんでしょ?何て返事するつもり?」  「なんで知ってんすか姐さん。まぁ福原経由でしょうけど。…俺は解禁なんで、もちろんOK出しますよ。というか、今日は自分から告白するつもりっす。いっつも想いを伝えてもらってばっかなんで。」  「あらあらまあまあまあ!それは素敵ね!フクちゃん泣いちゃうかも。……誰かさんにも、こうあって欲しいところよね。ねぇ?。」  大塚先輩は梅木先輩を直視できず、バツが悪そうに首を搔いている。  「大丈夫っすよ。パイセンはいつでもカッコいいパイセンなんすから。俺にできることはパイセンも絶対やってのけると信じてますから。」  それじゃあ。俺は短く挨拶して部室を後にした。スマホのミュートしてた通知を確認すると38件の未読メッセージ。福原だろうな。早く行かないと何されるかわからん。先輩たちの恋の行方も気になるところだが、まずは自分から。  大好きな先輩たち、どっちも頑張れ‼  
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