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少し肌寒い日が出てくるようになった頃、高校最後の大会があっさり終わった。惜しむらくも3年生は部活を引退することになり、これからはそれぞれの進路にそって、頑張ることになってくる。
窓もドアも開放した部室の中を、強い風が吹き抜けていく。―哀愁。そんな言葉が、今ここでは似合うのだろうか。そういえば秋って漢字も含まれているな。言葉とはよくできたものだな。しみじみ。
「なーんか、したり顔ってカンジ?キモいよ?」
「…今日も、言葉のナイフが鋭いな。」
主将だった自分の最後の仕事、後輩への引継ぎ資料と年間スケジュールの資料作りのために部室で作業をしていたところに、女子主将がやってきた。
「相変わらずボッチで作業が好きだね。」
「人といると落ち着かないし、集中できないんだよ。」
「それ、キャプテンの言うことじゃないよね。よく今まで部員をまとめれてたものだよ。」
「部員は別だよ。みんな、いいやつだ。俺がキャプテンらしく振舞えなくても、フォローしてくれるし、特に後輩は俺ら3年より優秀なのに、最後まで敬意をもって接してくれてた、と思う。思いたい。」
「まぁ、君はマジメだからね。徹頭徹尾、何かを貫く姿勢ってのは格好よく映るものですよっと。」
「んーナチュラルに隣に座ってくるじゃん。そのぐいぐいくる感じ、めちゃこわなんだが。」
よいしょと長椅子の隣に腰掛けてきた彼女は、長い髪をかき上げて、手元の資料を覗き込んでくる。女の子特有の甘い香りが漂い、時たま吹く風によってかき消されていく。
「毎年思ってたんだけど、こんな細かい資料いる?みんな大体把握してるし、口伝えとメモでいいんじゃない?」
「俺もそう思ってたんだけど、前野先輩が言うには送り出してもらう後輩になんか形として残しておきたい、っていう気持ちなんだとさ。」
「ふーん、…よくわかんないね。それだったら3年でカンパして物おくったほうが良くない?」
「俺もそう思う。ま、悪しき風習として残していけばいいさ。そのうち誰かの代でやめるだろ。女子の方は何かしないのか?」
「女子の方は二つ上の先輩がやめちゃったみたいだよ、それ。人数少ない分上下のつながり強いから、わからないことあったら上の代に連絡。それでもわからなかったら、上の代がまたもう一つ上の代に連絡ってして、聞いてるみたい。OGのお茶会も定期的にあるみたいだよ。わたしは行ったことないけどね。めんどくさそうだし。そのあたりはフクちゃんに任せてあるのよ。」
「福原か。次の女子キャプテンはあいつだっけ。」
「そうそう。いい子だよねー。」
「あいつ、やけに俺への当たりが強いんだよな。」
「そりゃあね。ま、しかたないよ。君が悪い。」
「何かした記憶はないんだがなぁ。」
「現在進行形でね、やっちゃってるのさ。」
にやにやしながら俺の顔を覗き込み、唐突に彼女は言うのだ。
「好きだよ。君とお付き合いしたいな。」
びっくりすることのない、告白。
「……もう何回目だよ。」
機会を見つければことあるごとに囁いてくる。大きな瞳はじっとこちらを見つめて、俺を逃がしてはくれない。
「あはは!ちょっと照れてやんの。何回言っても新鮮な反応がかわいいよね。」
「お前なぁ…顔が良い分、冗談でも心臓に悪いんだわ。可愛さの暴力なのよ。」
「冗談?違うよ、私はいつでも真剣に言ってるよ。おバカさんだなぁ。」
ずいずいと、間を詰めてくる。長椅子の端へと逃げる俺を、さらに詰めて逃がしてくれない。
「もういいよね?引退したんだし。」
「ナンノコトダカー」
「レンアイ解禁、だよ。」
きょうは逃がさないよ。彼女は俺の耳元でそういった。
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