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「いや、よく言われるんですよ。けど実際はかなり、ブラックです。やってみたらわかりますよ。しかも、人が来た時はちゃんと診療して、薬を渡しているんです。こんな風貌だから身構えられることが多くて、打ち解けてもらえるようにかなり練習を積みました。ほら、こんな風に」
そう言って精神科がにこりと笑うと、男は
「口が裂けています」
と、懐から小さな手鏡を出して、言いました。
精神科医は慌てて、鏡を覗き口元をなぞります。
「おっと、これは危ない。一応、どんなに忙しくても毎朝、笑顔の練習だけは欠かさないようにしているのですが、いやはや、お恥ずかしい。まだマスクは必須ですね。はて、どこに置いたっけなぁ・・・」
そうして、精神科医がマスクをつけもう一度顔を上げると、すでに男は姿を消し、代わりに紙幣が一枚机に残されていました。
「全く、せっかちな患者だ」
ため息をつき、精神科医が取り上げてよく見ると、それは紛れもなく17世紀の1ポンド紙幣なのでした。この紙幣では、コンビニで手軽に両替もできません。
稀に見る特殊な非常識に流石の精神科医もほとほと困り果て「全く、どう誤魔化したものか」と、ひとり肩を落とし、看護師を呼びつけます。
そうして、診察室Aに休診中の札が掛かるのは、今日で3度目。次の患者が痺れを切らす前に、開けばいいのですが・・・。
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