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滅多に開かない診察室Aの扉が開き、患者の男が入ってくると、精神科医は早速診察を始めます。
「で、今日はどんな御用でしょう?」
男は深刻な面持ちで切り出します。
「先生、ついに兆候が現れたかもしれません」
「おぉ、それは良かったですね。では、まずはきっかけを詳細に聞かせてください。それから、判断しましょう」
「お願いします。きっかけはですね、そう、昨日のことなんですが、ほんの少しの事故で入浴剤を胸にぶちまけてしまったのです。そしたら、血や反吐のようで美しく見えたのです。入浴剤がですよ。こんなことは始めてでした。
しかし、入浴剤の性質からいって、粉は水に溶けていきます。ことが起きた時はなぜ、風呂から即座に立ち上がらなかったかと、ひどく後悔しました。が、ですがよくよく考えてみれば、結局は同じことだったのです」
「同じことですか・・・?」
「だって、我々は汗をかくではありませんか。風呂場にいなくとも、憎き汗が全てを台無しにしてしまうのです。だから、私はやはりもっと、濃く固まる類を浴びなくてならないのです。こうしている今もあぁ、体が疼いて仕方ない」
「では、ここで、お墨付きをもらった暁には・・・」
「えぇ、そのつもりです」
精神科医はそこまで聞くと、ぱっと顔を上げ
「おめでとうございます」と、言いました。
「やはり、そうでしたか。本当に、やっとです。これで望みが叶いました」
ずっと、表情を強張らせていた男は嬉しそうに声を弾ませ、不気味な微笑を浮かべます。
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