天城の殺陣

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「美味しかったかい」  人気のない竹林の奥、切り株に腰かけた天城は、眼前の血だまりに向かって殊更優しい声を出した。  血だまりの中には小さな赤子。泣きもしない、喃語も発さない無機質な人形めいた赤子が、もぐもぐと咀嚼しているのは巨大なトカゲの指である。かじりつく歯は先の尖った捕食者のそれだ。 「可愛いわたしの永遠。腹は膨れたかな」  天城が抱き上げると、永遠は不服そうに鼻を鳴らした。異形喰らいの赤子はまだまだ空腹といった様子だ。 「すぐに次の獲物を見つけよう。お前を飢えさせるわけにはいかないからね」  人が異形と化す病――”齋病”。  罹患した者が人に戻ることは2度となく、彼らを救うのは死という安寧しかない。  この国の各地には、そんな彼岸の者と化した異形を狩る者たちがいる。 「たくさん食べて大きくおなり」  天城が異形を狩るのは永遠のためだった。この暴食な赤子は、異形の者しか食うことができない、そういう風に天城は育てた。  目の見えぬ身体を引きずり、異形の赤子を抱え、異形を狩る。  不自由さと矛盾と愛を孕んだ男。  それが、天城という彼岸狩(ひがんがり)だった。
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