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 彼の駆けて行った山林に入り、青いパーカーを探す。足場の悪い山道を登った先に、仁汰の背中が見えた。彼はは小学生とは思えない速さで山を登っていく。  山林の傾斜と木の根に足を取られ、咲那は上手く登れずにすぐに仁汰を見失った。  気づくと、薄暗い森に一人取り残されていた。仁汰の背中だけを追いかけてきたせいで、背後見てもどこから来たのか分からない。  一旦、山を下って人通りのある道に出た方がいいだろうか。一瞬悩んだ咲那だったが、アスカのことを思い出して山道を見上げた。  彼を追いかけなかったら二年前の彼女と同じように、帰って来なくなるかもしれない。いてもたってもいられなくなり、再び山を登り始める。  山を登った先にある鳥居か、沼地を探そう。開けた場所に行けば、仁汰がいる可能性もある。  黙々と山林を歩いていくが、思ったよりも足場が悪くて息が切れてきた。一度乱れると急激に呼吸が苦しくなってくる。 「こぶた、たぬき、きつね、ねこ、こぶた、たぬき、きつね、ねこ」  急に心細くなり、咲那はいつものおまじないを唱えた。日が暮れてきたのか、辺りはいちだんと暗くなってくる。  おまじないを唱えながら歩いていると、背後から葉のこすれる音がした。  何かがいる。 「仁汰くん?」  気配を感じて仁汰を呼ぶが、誰もいない。立ち止まると、もと来た道すらわからなくなっていたことに気づく。この先にあるはずの沼地に出ない限り、帰れそうにない。
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