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「山に仁汰くんが入っていくのが見えたから、追いかけて行ったんだよ」
「うそっ! それで、仁汰くんはどこに?」
「見失っちゃって。これ沼で見つけたんだけど、仁汰くんの名前が書いてあったから持ってきた」
咲那が答えると、乃蒼はベンチから立ち上がってスニーカーをまじまじと眺める。
「片方だけ? 交番に届けてあげた方がいいのかなぁ? それとも親御さんか、学校かなぁ?」
「つい持ってきたけど、元の場所においてた方が良かったかも。こういうのって、見つけた場所が大切だよね? たぶんさ」
小さなスニーカーすら、見つからないことだってある。アスカが行方不明になった時には、なにも見つからなかった。
「なんで泣いてんの?」
乃蒼の指が咲那の頬をすべる。
「知らん」
頬に伝う涙に咲那は触れた。
なぜ泣いているのか、自分でも分からなかった。仁汰のことも、アスカのことも、考えられないほど頭の中が混乱してはじけ飛びそうだ。
「交番行こうか」
乃蒼は咲那の手を取り、ゆっくり歩き始めた。
誰かと手を繋いで歩くのなんて久しぶりだ。つながった手の温かさが懐かしくて、咲那は乃蒼に気づかれないように鼻をすすった。
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